人は言葉に縛られる

「ダメ出し」という言葉が、昔からあまり好きではない。

よく演劇で、稽古が終わった時に演出家が役者たちに、
「お前のここがダメ」「あそこがダメ」「なってない!」
などとみんなの前で指摘する。
言われた役者は殊勝にうなづいたり、あるいはうなだれたりする。
勢い余った演出家は灰皿なんかを投げる(今は煙草を吸わないから、ペットボトルとかね)。
それほど熱く、親身になって自分たちを指導してくれたことに対し、役者は時に涙ながらに「ありがとうございます」と感謝する。
…というアレだ。
こう書くと、コントのようだ。実際にあんな現場があるのだろうか?

私は遭遇したことがないが、たぶんあるんだろうし、それほどでもない似たような状況なら多くあると思う。
演劇に限らず、ショーのステージとかでもあると思う。出演者ではなく、裏方スタッフに対してもあると思う。
どんな現場でも修正点・問題点は常にある。ここではエンタメの世界の話をしているが、他のジャンルの一般の職場でも、あるいは趣味のサークルでも、それはある。常にチームの中の誰かが懸念点を指摘して、本番でのミスを未然に防いでおかなくてはならない。「ダメ出し」的なことは必要なのだ。

「ダメ出し」は、コントならば笑いで終わるが、実際の現場は重たい空気のまま終わるんだろうな。その空気を払拭するため、演出家は急に(不自然に)優しい言葉をかけたり、あるいは休憩時になにかおごったりするんだろうな。そこまで含めての「ダメ出しパフォーマンス」なんだろうな。
……とも思っている。

長年こういう仕事をしていると、私なんかでも演出家的立場で誰かに何かを指摘しなければならない現場がある。だけど「ダメ出し」という言葉が苦手なので、なるべく使いたくない。なんだかゴニョゴニョと言い訳をしながら、「あそこは、こういう方がいいんじゃないかなあ…」なんて言う。ちっとも威厳がない。

なにかで、「海外ではダメ出しと言わない。giving noteとかgive a noteと言う。気づいたこと(note)を与える・共有するという意味」というのを読んで、「これだ!」と思った。
以来私は、「海外では……」とわざわざ上記のことを言ったうえで、修正点を伝えることにしている。なにかにつけ「海外では…」を持ち出すタイプは、カッコつけてるみたいで好きではないが、そこはまあ目を瞑ろう。
本当に海外でそう言われているのかは、知らない。嘘かもしれない。が、「ダメ出し」という言葉を使わない理由として都合がいいので、そこも目を瞑って使っている。

おそらくは……と私は想像するのだ。エンタメの世界の人間はクソ真面目を嫌い、シャレっぽいことを好む。

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