ただ、それだけ
どこまでも青々とした大空のもとで歩いていると、風がビューーっと吹いてくる。
思わず、ハイネックを着た首も短く引っ込めしてしまった。今日は、木枯らし1号がふいたんだって。冬が近づいてくるね。
てくてくと歩いていると、向こうから歩いてくる方がふたり、そして、言う。
「なんでここの草からないんだろうね。それならもっと歩きやすいのに」
わたしはぽつりと呟く。
「たまたま草がたくさんなだけなんです。ない時もあるんです。」
言ってから、あぁ…やってしまったな。と思った。
そっとしておけばいいものの、口が勝手に動くとはこのことか。衝動的とはこのことか。
でも、わたしは知っていた。
定期的に草を刈ってきれいにしてくれる存在があるということを。その景色も。
わたしと、あの方と、見ている時間の長さが違う。ただ、それだけ。
いないことになるのが寂しかった。
ただ、それだけ。