#308 偽りの正義
朝目が覚めると、9時からの新人練習に間に合わせる為に急いで準備を行った。8時半前にはグランドに着くように家を出た。
東武東上線で池袋駅迄出て、池袋駅で山手線に乗り換え。高田馬場駅で西武新宿線に乗り換え、早大運動場のある東伏見駅へと向かった。
この日も春の陽気で暖かい日だった。
東伏見へは上石神井駅まで急行へ行き、上石神井駅で各駅停車に乗り換えて2駅で東伏見に着く。
僕は上石神井駅で乗り換えを行わずにそのまま急行に乗ったまま次の田無駅まで行った。
僕は突然新人練習へ行く気が失せてしまったのである。
田無駅に着くとそこで各駅停車に乗り換えて、一つ前の西武柳沢駅で降りた。何のあてもなく、駅の改札を通過し外に出た。
僕は放心状態で目的無く歩いた。そうすると住宅街が見えてきたので
引き返し、駅に戻った。
駅前のバス停に吉祥寺行きのバスが止まっており、乗った。とにかくここを離れようと馴染みのある吉祥寺に向かうことにした。
バスに乗る事30分位で吉祥寺駅に着いた。まだ10時前なので空いているお店も少なく、商店街を歩いている人もさほど多くは無かった。
僕はこのまますぐに家に帰る気にならず、吉祥寺駅からしばらく歩いて井の頭公園に辿り着いた。とても広い公園で至る所にベンチもあったので、大きな池のほとりにあるベンチに腰掛けた。
僕の早大ラグビー入部へのチャレンジはあっけない形で終わってしまったのである。
タイムで足切りにあったわけでなく、自分で尻尾を巻いて逃げてしまった。
この時の僕はラグビー部主務が放った「ラグビーが上手いと思うものは日体か明治にでも行ってくれ」という言葉に違和感を感じ、ラグビーの技術云々ではなく、ただ単にタイム走をクリアし続けたものしか入部させないという方針に異議を唱え、自分から辞めたと自分自身に言い聞かせていた。
決して逃げた訳ではなく、自らの意思で自分の正義を取ったと思い込むようにしていた。
2時間程、井の頭公園のベンチで訳もなく、時間を潰した。
続く…