『愛を知れ』

2019年2月11日に書いた作品です。
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『愛を知れ』


そこにあったのは「愛を知れ」たった四文字であった。しかし僕は今、一人何もないこの暗闇にいて何ができるというのであろう。愛というものはひとりでは与えることも感じることもできない。この指示は何なのであろう。そして僕はなぜ今ここにいるのであろう。過去のことは何も思い出せない。だから、僕が愛情を与える対象が誰なのかわからない。過去には僕はだれかに愛情を注いだのだろうか、僕のことを愛してくれる人はいたのだろうか。でも愛情なんて言葉は曖昧で、どうすべきことを指しているのか今の僕にはわからない。いや、過去の僕にもきっとわからなかったことなのだろう。ああ、だから今僕はこの世界にいて、「愛を知れ」という指令が出されているのか、そう思った。「愛を知れ」その四文字が何を意味しているのか今の僕には分からないが、愛を知ったら元の世界に戻れる気がした。それと同時に、元の世界に戻ることの意味を考えた。元の世界にもどれたら愛を注ぐ対象はいるのだろうか。幸せなのだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら暗闇を歩いていた時になにか冷たく生臭いものが僕の顔を撫でた。不気味で気持ち悪いと思ったと同時に何か懐かしさを感じた。しかし、懐かしかったその過去の出来事を思い出すことは今の僕にはできなかった。そして、不気味な雰囲気を感じながらも僕は足を止めることはできなかった。また、ぐぅとなにか変な音がしたが気にしている場合ではなかった。もちろん後ろを振り返ることもしなかった。ダッダダッダダッダダッダ…と音がした。誰かいるのか?人か?動物か?と思い「おーいおーい、誰かいるのか?」と叫んだが誰も出てこない。風だった。今の僕は愛情を注ぐ対象が欲しかったから、人でも動物でも何か命をもつものに出会いたかった。こんな暗闇に僕と同じ状況の人はいるのだろうか。いた場合同じ指令が出されているのであろうか。まあそんなことはどうでもいい。どうせいないのだから。その時トントンと肩をたたかれた。人間の手のように感じたが、恐ろしく冷え切った手に死んだ人間の霊だと確信した。ゾクゾクと震え上がった。早く逃げなければと思い、一心不乱に駆け抜けた。

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