独身アラフォー個人事業主、中古戸建を買う
中古戸建を買った。築38年になったばかりの、慎ましやかな木造住宅だ。それまでは賃貸の古民家に住んでいた。
音楽ライター1本で生計を立てているわたしは在宅時間が長い。自ずと家の様々な粗が見えてくるが、それを改善したくても賃貸物件なのでできないというもどかしさを抱いていた。2018年頃から持ち家への憧れは強くなり、2028年の中古戸建購入を目指し、貯金を始めた。
そんななかで2023年11月、寝耳に水の立ち退き命令が入った。大家いわく、築70年を超えたので取り壊すという。
退居のタイムリミットまで1年弱。家を買うには貯金がまったく足りない。冴えない独身アラフォー個人事業主は、藁をも掴む思いで住宅ローンの交渉に行った。ある銀行ではこれまでの人生をことごとく否定されたうえで「貸せない」と突っぱねられ、ある銀行では500万貸してくれれば充分と伝えたのにもかかわらず「1000万円の35年ローンでないと貸さない」の一点張りだった。
疲弊した心で冷静になって考えた。現時点でもそれなりのまとまった額はある。ローンが下りたとしても、保証協会への支払いや金利などもなかなかの金額だ。無名の独身アラフォー個人事業主、いつ食いっぱぐれるかわからない。悩みに悩んで、現金払いできる予算内の物件を選ぶことにした。綺麗な家を買うこと、貯金を残しておくことよりも、未来の自分に金銭面の負担を負わせたくない気持ちが勝った。
その選択は妥協と捉えられるかもしれない。だがこれまでの家賃の費用で少しずつリノベーションができる、つまり賃貸物件時代に抱えていた「家の粗を解消する」「自分好みに変えられる」という欲求は叶えられる。ピークからじょじょに劣化していくのを待つよりも、劣化と戦いながらこつこつとアップグレードしていくほうがゲーム性もあって面白い気もした。
家を買い、貯金はゼロになった。賃貸時代には実現できなかった自分の理想の空間を作るのは何かと物入りで、支出も多い。当たり前のように7桁あったすべての貯金通帳が4桁になっているのを見ると血の気が引く。ただこつこつと貯金をしている頃よりも、確実にアドレナリンもドーパミンも出ている。血が漲っているのを感じる。
これまでのわたしは、これからのわたしに貯金を全ベットした。となればここからは、さらに充実した生活を送るしか道はないのだ。