Q1:試用期間中のスタッフへ「来週から来なくていいよ!」と言ったら…?
A:トラブルの原因になります。解雇に相当するような状況がなければ、解雇は難しいでしょう。
<解説>
「試用期間」という言葉を、一度は聞かれたことがあると思います。また、その期間を実際に経験した方や、スタッフ採用時に設けている、というオーナーさん、店長さんもいらっしゃるでしょう。皆さまは、あの試用期間の本当の意味をご存じでしょうか。
試用期間とは、採用する側にとっては働く人の性格、勤務態度、作業能力が求める基準にあるかどうか、採用される側にとっては職場が自分に合っているかをそれぞれ見極める期間です。そこは皆さまも想像しやすいと思うのですが、この試用期間、実はどの法律にも詳細な記載がありません。なので、意味合いがよくわからないまま使っていると、採用側と雇用側でトラブルに発展することも多いのです。その中で最も多いのが「試用期間と解雇」に関するものです。
ある店舗で、こんなことがありました。
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入社して3か月、試用期間終了を今週末に控えた社員スタッフAさんは店長のMさんに呼び出され、こう言われました。
「君はレジのミスが多かったから、来週から来なくていいよ」
Aさんは驚きました。過去にレジのミスが何度かあったのは認めたものの、働き始めて1か月を超えたところからそれも減っていたし、注意も受けなくなっていました。そして、試用期間がそろそろ終わる、と思っていた中で突然の解雇宣言。AさんはM店長に「そんなの聞いたことない」と抗議しました。すると、M店長は、
「君はまだ試用期間でしょ。試用期間は本採用ではないので、こうなることは仕方ないよ」
の一点張り。Aさんはそのまま解雇を余儀なくされましたが、解雇は不当だとしてM店長を訴えることも検討しています。
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さて、M店長の対応は非常に危険です。では、どこに問題があるのでしょうか。それは、次の2点です。
①ルールが明確でないまま、店長の一存で解雇を行ったこと
②「解雇予告期間」を設けなかったこと
まず、①は、店長の一存では決められません。誰の目から見てもわかるルールを事前に決めておく必要があります。少し専門的な話になりますが、具体的には、試用期間の有無や期間、試用期間後の本採用をしない場合の判断基準などについては「就業規則」(店舗で働く際のルールを記したもの)や採用時の「雇用契約書」などで、スタッフへ明らかにすることが必要です。しかし、Aさんの店では、本採用をしない場合の判断基準がどこにもありませんでした。
Aさんは、働き始めて何度かレジのミスがあったのは認めていますが、時間の経過とともにそれも減っています。それ以降、特に注意を受けることもなく3か月の試用期間を終えようとしていたので、問題なく本採用になる、と思っていたのでしょう。
次に②ですが、「解雇予告期間」とは、会社(店舗)がスタッフを解雇する場合、少なくとも30日前に解雇を予告する必要がある、というものです。労働基準法上には「試みの使用期間」という、入社してから14日間は解雇予告期間を設けず即時解雇できる期間があると定められていますが、Aさんの場合、その期間はすでに過ぎており、しかもこの週末には試用期間が終了する予定でした。その直前に「もう来なくていいよ」という話をしても、30日を切っていることから、これはできないのです。もし、30日を切った状態で解雇を行う場合は、解雇予告手当(平均賃金)を支払わなければなりません。以上の2点がまずクリアできていないので、Aさんの解雇は認められない、ということになります。
では、この2つの条件を満たせば解雇できるのでしょうか。もちろん、そう簡単にはいきません。試用期間は本採用を見極める期間とはいえ、雇用契約は成立しています。よほどの理由がない限り、難しいのが実情です。
例えば、過去の裁判例を見ると、①重大な経歴詐称、②業務がまったくできないレベルの能力不足、③勤務態度が極めて悪く、店舗の運営に支障をきたす状態、④遅刻や欠勤をかなりの頻度で繰り返す状態、⑤極めて重大な健康上の問題がある場合、などがあった場合には検討することも出てくるでしょう。しかし、そうでないと、現実的には厳しいのです。詳しくは皆さまのお近くの専門家にお問い合わせいただくのが一番ですが、いくら試用期間だからといって、スタッフを軽く扱うことはできない、ということを知っておいていただきたいと思います。
むしろ、そうしたことにならないように、面接時や採用時に情報の正確性に気を配る、あるいは普段からこまめにコミュニケーションをとり、変化に気づくなどして、試用期間のスタッフが早期に業務を習得し、一人で対応ができるようにフォローしていくことが大切です。
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