(鑑賞記録)タブレットとマーブルの金沢うためぐり
金沢21世紀美術館のイベント「タブレットとマーブルの金沢うためぐり」に参加してきました。こちらは、現代美術作家の毛利悠子さんが企画されたオーディオプログラム。美術館が所有するアートバスに乗って、金沢の名所を回ります。しかし、観光名所と言えばの兼六園や近江町市場などには参りません(どころか観光名所と言えばの美術館から出発するわけです)。そしてツアーにはガイドがつきもの。そこはタブレット(歌手で芸人のタブレット純)さんと、マーブル(音楽評論家の湯浅学)さん、お二人が声で務めてくださいます。トークの合間に、二人が選曲するのは歌謡曲。
美術館を出発したバスがまず向かったのは、割と山のほう。ゴジラこと松井秀喜の出身校である、星稜高校野球部のグラウンド横を、バスは通過します。その間、バスの中ではタブレットさんとマーブルさんによる、野球トークが流れています。そして野球にまつわる歌謡曲が。初めて耳にする歌謡曲を聞きながら、誰もいないグラウンドに松井の面影を見る。なかなか自分ではしない体験です。
そしてこの二人のトークは、音声だけではなく、バス車内前方、運転手席の後ろに設置されたディスプレイでも流れているのです。手話と文字で(手話は橋本一郎さんと田中結夏さん)。耳が聞こえない人でも見て楽しめるようになっています。タブレットさんとマーブルさんのゆるゆるトークや、ドラマチックな歌謡曲が、手話で表現されている様子を見ているのも、楽しいものでした。
その後バスは、輪島や遠藤も立ったことのある卯辰山相撲場を通過し、卯辰山公園でトイレ休憩。この辺りには昔、金沢ヘルスセンター(後に金沢サニーランド)という複合施設がありました。動物園に水族館に演芸場に映画場に温泉に宿泊にと、今にして思うとえらく豪勢な施設です。ですが、私がこの施設について唯一覚えているのは、施設内に謎の階段があったこと。階段付近には何の案内もありませんでした。この先には何があるのか?幼い私は好奇心からその階段を降りようとしていました。しかし、従業員さんに「そこは行っちゃ駄目ですよ」と声を掛けられてしまい、階段を降りてみることはできなかったのです。まあ従業員室だっただけなんでしょうけど、何か心引かれる薄暗さがそこにはありました。
えらく脱線しました。バスは野町湯の横を通過し、チカモリ遺跡にて停車。しばし施設の方の説明を聞きました。時間の都合上、説明を十分には聞ききれなかったようですが、大きな水槽に浸かった木材(柱根)が、何だかすごいものらしいということは伝わりました。そこからバスは金沢蓄音機館へ。ここでは館長さんによって、蓄音機でレコードを聞かせていただきました。そしてバスは美術館に帰ります。
脱線して私の思い出を語ってしまいましたが、この「金沢うためぐり」のプログラムには「何か心引かれる薄暗さ」を想起させるものがあったのだと思います。訪れた場所はきらびやかではないけれど、そこにはたくさんの記憶が折り重なっています。その一部を見聞きすることで、自分の中にもある折り重なった記憶の、下の方に埋もれていたものが久しぶりに顔を出してきたような、そんな気がします。
このイベントは、2月11日と3月11日にも実施されます。まだ申し込めるようなので、金沢近郊の方、たまたま金沢行くし時間もあるよという方、隠れた名所を体験してみてはいかがでしょうか。
(1/27追記:申込受付は終了したようです)