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さやか星小学校の、おいしい給食

さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎


愛する給食

 私は給食が好きだ。給食のために学校に来ていると言っても過言ではない。何故なら、我が家では時間短縮のために食事のメニューが完全にルーティン化されており、毎日同じものばかりを食べているからだ。しかも、ルーティン化を発案したのは私だから、今更文句も言えない。子どもたちは、頑張っている私や妻を傷つけないように、「美味しい、美味しい。」と言って食べている。たまに外食をすることになった時、娘は涙を流して喜んでいる。だから、給食は私と娘にとって、1日で最も充実した食事だ。今日の給食のメインディッシュは、白身魚フライタルタルソース。私は自他共に認める、生粋のタルタリスト(タルタルソースが大好きな人)だ。だから、自ずとテンションはマックス!「早く昼になれ。」と願わずにはいられない。だが、そんなことは決して周りに知られてはならない。教師が児童以上に給食を楽しみにしているなどと知れたら、私の威厳は失墜する。なので、ただ心の奥底で、給食を愛するだけだ。
  さて、今日のメニューは、先述した白身魚のフライタルタルソースをメインに、きんぴらごぼう。そして心と体を温める汁物はカブのコンソメスープだ。そこに安定のコッペパンと瓶牛乳という揺るがない定番選手が脇を固める。素晴らしいラインナップだ。野球では、4番打者を9人並べても勝てないと言われている。1番打者から9番打者までそれぞれに役割があり、その役割を全員が遂行することでチームとして最大の戦力を発揮することができる。給食もそれと同じだ。今日の給食で言えば、4番打者は間違いなく白身魚フライタルタルソースだろう。だからこそ、空腹に任せていきなり白身魚のフライにかぶり付くのは素人のすることだ。まずは、きんぴらごぼうを食べることで体内に食物繊維を送り込み、血糖値の急上昇を防ぐ。咀嚼が必要なごぼうを先に食べることで唾液の分泌を促し、体を食事モードに切り替えるのだ。甘さと辛さが絶妙に絡み合う、なんて魅惑的な味付け。食べるごとに胃腸が綺麗になっていくようだ。くっ、箸が止まらない!危なく全て食べてしまうところだった。落ち着け、次郎。さて、少し胃袋が落ち着いてきたところで、次はスープを飲む。コンソメスープといえばジャガイモやニンジン、玉ねぎが定番だが、今日のスープのメインの具はカブだ。カブは古くから日本で食べられている野菜の一つで、何と「日本書紀」にも登場する。実のほとんどは水分だが、消化酵素のアミラーゼを含んでおり、胃もたれを予防してくれる。そう、揚げ物である白身魚のフライを存分に味わうための気遣いがここにあるのだ。そんなこと考えもせずにいきなり白身魚のフライにかぶりつくA男君にB子さん。彼らには給食道の指導が必要だな。さあ、体は整った。いよいよ白身魚のフライを迎え入れよう。しかし、何の工夫もせずにタルタルと絡めて食べるのでは趣に欠ける。ここで、登場するのが半世紀以上にわたって給食を支える給食界の長嶋茂雄こと、コッペンパンだ。このコッペパンに白身魚のフライをはさみ、タルタルソースを余すことなく塗りたくれば、白身魚のフライサンドが完成する。何てことだ、給食を食べ始める前よりも腹が減っている。もう我慢できない!いざ!!おう、このザクっとしたフライの歯応えと、ふんわりとしたパンの食感。タルタルの酸味が白身魚の淡白な味を引き立て、そこにパンの甘味が合わさることで口の中に一つのコスモが生まれている。むう、二口で半分以上なくなってしまった。おいおい、何を拗ねているんだ。君のことを忘れるはずがないだろう、牛乳君。日本に給食が根付いて以来、常にお盆の右上に鎮座してきた牛乳。昨今は紙パックの牛乳が増え、瓶で牛乳を飲める機会が激減した。批判を恐れずに言おう。牛乳は、瓶のほうが絶対に美味い。最近の紙パックは非常によくできており、瓶だろうが紙パックだろうが味の差はないとされている。しかし、人間は食事を目でも楽しむ生き物だ。白い絵の具よりも白いあの牛乳という液体がはっきり視認できる瓶のほうが、圧倒的に牛乳を飲んでる感があるのだ。よし、牛乳の蓋が綺麗に外れた。今日の私は絶好調だ。口の中にパンとフライがまだ残っている状態で牛乳を口に含む。口の中のコスモがビックバンを起こし、宇宙が無限に広がっていく。パンと牛乳。この組み合わせは互いの美味さを足し算ではなく掛け算的に高めていく。美味い、美味すぎる。今日も、最高の給食だった。毎日おいしい給食を食べられる幸せに感謝しつつ、午後の授業も頑張ろう。ご馳走様でした。

給食のスモールステップ

 私も子育て真っ最中の父親なので分かりますが、忙しい日々の中で、子どもが食事に時間がかかると焦ります。だから、ついついよく食べるもの、好きなものを食卓に並べてしまいがちです。しかし、そうなると食経験が増えないし、栄養に偏りが出てきます。やはり、苦手な食べ物でも少しずつ食べられるようになってほしい。その点、給食は子ども一人ひとりの好みではなく、栄養バランスを考え、様々な食材を食べられるように設計されています。給食は、食経験を増やす大事な学びの機会なのです。
 大人になると味覚が変化し、子どもの頃に嫌いだったものが好きになることはよくありますが、それも「苦手なものを少しでも口に運んでみる」という経験を積んでいることが前提です。「苦手だけど、ちょっと箸を伸ばして口に運ぶ。」という行動が形成されていなければ、大人になっても食は広がらないでしょう。我が家では、奥田理事長の著書に載っているコース料理形式を採用しています。これは、苦手な物であっても小指の先ほどの量で良いのでほんの少しだけ食べたら、次に料理に進める。最後に子どもが一番好きな食べ物に辿り着けるという方法です。例えば、野菜のソテーと味噌汁とハンバーグと白米を夕食に用意したとします。子どもが大好きな料理はハンバーグです。ここでハンバーグを先に食べたら、間違いなく苦手な野菜のソテーと味噌汁は食べずに終わります。野菜のソテーと味噌汁を食べたら、ハンバーグが食べられるというシステムにするのです。しかも、同じお盆には載せず、苦手な食べ物は小さな小皿に乗せてそれだけを出すようにします。ハンバーグを好子にして、苦手な野菜を食べるという行動を引き出し、強化するという構造になっています。
 さやか星小学校の給食でも、同じような方法を採っています。苦手なものがあるのは仕方ないので、無理に全て食べさせるようなことはしません。ただし、「一口も食べない」ということもなるべくないようにします。最初は本当に小指の爪の先ほどまで減らします。そして、子どもと相談しながら食べる順番を決めます。食べられたら褒めて強化します。私は公立学校で教師をしていた頃も、同じ方法で給食指導をしていました。その結果、私の学級は常に給食を空にしていましたし、全く食べないというお子さんもいませんでした。
 苦手だった料理を食べられた時、子どもはとても嬉しそうな顔をします。これを9ヶ月続けたら、全く牛乳が飲めなかったお子さんが1本まるまる飲めるようになりました。しかも二人。給食すらも、苦手を乗り越えて自分にできることを増やす学習の場ととらえるのが、さやか星小学校。今日もおいしい給食を、いただきます!

箸を使って上手にご飯をつかめたので得意顔です。
児童一人ひとりが持参しているタッパーに、減らした分の給食を入れておきます。最初に担任と相談して決めた量を食べ切ってまだ食べられそうなら、タッパーから自分のお皿に追加します。全部食べ切れると、達成感からみんなとても良い笑顔になります。