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30.フィルムの終わり
私が編集部になって十数年の間に、フィルムの時代はあっという間に終わってしまいました。
2013 年に映画館のデジタル化への移行が完了し、フィルム編集は激減しました。
フィルムで撮影してデジタルで編集するという方法もすっかり見なくなったと思います。
今はほとんどの映画が、データで撮影し、データで編集し、データで上映しています。
RED ONE というカメラが出てきた時、フィルムを越えられないと言われていたデジタル画質の壁が崩れました。
しかし当時のRED ONE はデジタル現像といって、撮影データをパソコン上で再生する状態にするための変換作業にとても時間がかかりました。
1日分の撮影素材がラボに入り、デジタル現像するのに1日かかることもありました。
しかしパソコンの性能とデータ圧縮の技術が進み、作業にかかる時間は飛躍的に短くなってきました。
変換は半日から数時間になり、それをハードディスクにコピーする時間も、パソコンへ取り込む時間も比例して短くなっていったのです。
フィルムからデジタルになり、いろいろな時間が短縮されました。
その変化によって編集部には時間がたっぷり与えられるようになったのでしょうか?
少し前なら「NO」と答えたと思います。
フィルムに比べて費用が抑えられるデジタルでの仕上げは、その利便性のみが注目されて、それを人が動かしていることをすっかり忘れさせてしまいました。
機械がどんなに早く動いても、人の考える時間というのは存在します。
働き続ければ機械でも脳みそでも動きが鈍くなってくるのです。
しかしデジタルでの作業はスケジュールを短縮し、その影響で、1日中働いても足りずに徹夜しながら準備と編集をするような状況になってきました。
でも、そんなことはフィルムの時代からあったのです。
私は日本映画・テレビ編集協会というものに所属しています。30 年くらい前に編集部の地位向上のために作られました。
そこにいる、日本映画やテレビを支えてきた大御所たちがが話す、プログラムピクチャーの背景に同じ光景がありました。
映画が週に何本も公開されるため、それを寝ずに、帰らずに作り続けてい
たと。
低予算で、公開までの期間がない作品の時などは確かに徹夜になることもあります。
それでもたぶん、戦うことはできるのです。
スケジュールとワークフローを工夫して、健やかに仕事ができる環境と時間を手に入れる努力はできるはずだと、今は思っています。
工夫するためには経験と知識と応用力が必要です。
大御所たち含め、いい歳になった私も、もっと勉強をし
後輩たちを助けられる知恵を絞れたらと思うのです。