29.フィルム編集について
もうほとんど行われていないフィルムの編集についても書いておこうかと思います。
フィルムは本当にこわいものでした。
先輩たちにはやっていれば慣れると言われたけれど、最初はどうしたって恐ろしいものでした。
まずフィルムそのものが重い。
触ると指紋や傷がつくし、ちょっとしたことで傷がつきます。
ある時、下手に作業してフィルムを傷だらけにしたこともありました。
汚れや傷は、スタッフ全員で見るニューラッシュ(OK カットをつないだフィルムを試写室で見る)時にスクリーンにでかでかと映し出されます。
傷だらけの映像が流れている間は、生きた心地がしませんでした。
自分の心臓の音が耳元で聞こえ、誰かが咳払いすると自分を責めているのではないかと息をのんだのを覚えています。
ラッシュが終わったあとに先輩に連れられ、撮影部さんと監督に謝りに行ったこともありました。
それでも、フィルムでの作業はとても楽しいものです。
撮影され、現像され、ポジフィルムとして手元に届きます。
ちいさな窓に芝居や風景が焼き込まれています。
机の一部が光るようになっていて、その窓に何が映っているか確認しながら、カチンコを探し、
音のシネテープといわれるフィルムと同じ大きさの音の素材から「カチン」という音を探して、画と音を合わせていきます。
それをスタインベックというフィルムとシネテープをかける、映写機の机版にかけて画と音がシンクしているか確認していきます。
やっていることはデジタルになっても同じです。
画と音を合わせて素材を作ります。
そうやって出来上がった素材をエディターが切ったり貼ったりして編集します。
エディターはまず、素材をじっくり見て、頭の中でどうつなぐかを考えます。
頭の中で物語が先につながっていき、それをフィルムで再現するべく印をつけ、フィルムカッターで切り、テープで張り付けていきます。
そして1本の映画になっていくのです。
撮影が終わって監督が編集に入ってくるとまず、試写室でエディターがつないだものを一緒に見ます。
その後、編集室に戻ってくると感想と直しの方向性を話し合い、編集の作業に入っていきます。
ビュアーやスタインベック、ムビオラなどのフィルムを流す機材を使いながらプレビューし、直していきます。
今のように編集機から大きめのテレビモニターに出すなんてことはできませんでした。
ビュアーもスタインベックも、13 インチとか15 インチくらいの小窓しかついていません。
そこを流れていく画を、スクリーンで見た印象を思い出しながら編集して
いきます。
ムビオラに至っては人一人が覗ける窓しかない機材なので、監督は直したい箇所を伝え、エディターが直したらそれを信じるか、ムビオラを覗き込んで確認しました。
エディターにも監督にも、スクリーンに映った時の編集感覚が染み付いていました。
編集を直すとき、台本を見たり、天井を見たり、目をつぶったりしながら監督はじっと考えます。
エディター、編集助手や記録さん、助監督さんはじっと待ちます。
監督が指示を出すと今度はエディターが考え始めます。監督の意図を組んで、どうつなぎ直すか、どのくらい切るか、どのくらい伸ばすか。
そして直し始めます。
直している間、みんな静かに待っていました。
ビュアーやムビオラでの編集直しの際は助手がエディターの対面か横にいます。
画と音が別々なので、直すときに画か音のどちらかを任されるためです。
技師がサインした通りにハサミを入れ、テープで貼っていきます。
まさに自分の手元で作品が作られていて、緊張感に溢れ、本当に楽しい時間でした。
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