【短編】黄泉の国の境目で

シュッ!はい、次のひと!

気がついたら私は果てしなく続く行列のゴールになっていた。並んでいる人達はみんな、私に香水をふられるのを待っている。

私は死ぬ間際、天国に行きたいと強く願っていた。絵本で見た天国はふわふわで笑顔がいっぱいで、みんな幸せそう。私、天国に行きたいなぁ。
目が覚めて意識が戻った時、ニッコリ可愛いお姉さんにキラキラの香水瓶を渡されて、
「おめでとう!とーっても名誉な役よ。」
と手を引かれて現世と黄泉の国の境に連れてこられた。


みんな知ってる?死んだ人は三途の川を渡るんじゃなくて、香水をふられるの。ここで禊落としをする。香水が降りかかると負の感情が全部宙に放たれて、パステル色の感情だけ残る。カラフルな感情な人はそのままエリュシオンへ。カラフルな人はたくさん笑顔で生きて、愛に溢れている人をあらわすから。色が少ない人はアスポデロスの野に行くの。
でも私のところでみんな幸せの概念になるから、黄泉の国は文字通り金色に光ってる。



ある時とっても小さい僕がやってきて、まん丸のおめ目でこちらを見つめてきた。いつも通りシュッてすると、その子は虹色に変わって大きな笑顔を私に向けたままエリュシオンに昇っていった。小さい子が来ることは珍しくない。1日何万人も私の所を通って黄泉の国へいくんだし。でも私はその子が笑っているのを見た時に泣いてしまった。彼は小さいのになんて幸せな人生を送ってきたんだろう。私はいつになったらエリュシオンに行けるんだろう。

遠い昔、私がここに来て香水をふられた時、限りなく黒に近い灰色になったそうだ。びっくりした天使の香水さんが、慌ててペルセポネ様のところに行って、これじゃあアスポデロスの野にも行けません、どうしたらいいんでしょうって聞いたくらい。私は幸せの感情を知らないまま、お母さんに殴り殺されちゃったらしい。哀れに思ったペルセポネ様は、成長オプションをつけて私が本物の幸せを見つけるまで、感情を持った雇い人として香水さんの1人にしたらしい。

虹色の僕は見えなくなるまで私を見つめていた。淡い色の感情が流れてくる。幸せってこういうことなんだ。暖かくて包んでくれる、安心する……。

私の魂が浄化されていく。色が灰色から限りなく白に近い薄桃色へ。
「おめでとう、あなたの仕事は今日で終わり。レテの川の水を飲んで、今度こそ自分で幸せを掴むのよ。」
ペルセポネ様は優しく微笑んで、私の背中を押した。

「またね。来世は虹色の人生をおくれますように。」








ギリシャ神話について
この話はギリシャ神話に出てくる言葉を引用しています。

エリュシオン…死後の楽園。神々に愛された英雄たちの魂が暮らすとされる。
アスポデロスの野…死者の魂が送られるところ。
ペルセポネ…春と農耕の女神。冥界の王ハデスに連れ去られ冥府で暮らす。ハデスの妻。
レテの川…忘却の川。この川の水を飲むと一切の記憶を忘却する。転生前に飲む。



小さい頃の私の空想は、いつもギリシャ神話にありました。昔の私は魔法や特集能力の出てくる話が大好きで、ファンタジー系の本を読み漁っていました。その中でも私の1番好きな小説シリーズは「パーシージャクソンとオリンポスの神々」。ギリシャ神話、ローマ神話をベースにして、オリンポスの神々と人間の間に生まれた子供たちが世界を救うために戦う物語です。
ギリシャ神話の登場人物は特殊能力があるにも関わらず、滑稽で人間的で、美しい感情を持っている事を物語を通して知ることが出来ます。(物語そのものもとても面白いです!)私だったらなんの能力が欲しいだろう、そんなことを考えながら読むのがとても楽しい作品です。

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