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名画を体験する@大塚国際美術館
大塚国際美術館(徳島県鳴門市)へ行ってきました。
製薬で知られる大塚グループがタイル製造に進出、信楽の会社と合併した大塚オーミ陶業が優れた技術により歪みのない大型陶板を開発しました。これに絵画を実物大に転写し、世界の名画を実に1000点以上を展示する比類なき美術館を作り上げたのです。
ホントのところ、初めは「レプリカ、わざわざ見に行く?」みたいに思っていたのですが、大学で西洋絵画を勉強し、さまざまな画家を知るにつれ、画集の小さな図版で見るより、よっぽどいいじゃないか!ということで、行ってみたくなったのです。事前に作品リストを印刷してみたら、あるわ、あるわ!テキストに載っている作品がザックザク。期待が高まります。とはいえ、約1000点ですから、たっぷり時間を取っても見切れない。今回は中世〜ルネサンス〜バロックを中心に見ることにしました。
この美術館の一番の特徴は環境展示。
絵画作品とともにそれが展示されている空間ごと再現しているのです。最も有名なのはミケランジェロの作品で埋め尽くされた「システィーナ礼拝堂」。ここは実際イタリアで訪れていますが、修復前だったのか、全体に薄暗くて正面の《最後の審判》にも近づけなかった印象があります。目の前で見上げると、その大きさと迫力に圧倒されます。それに色彩がとっても鮮やか!もっと見ていたいけど、見上げ過ぎて首がイタイ…。
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それだけじゃあない。12世紀のビザンチン様式を体験できるテサロニキの「聖ニコラオス・オルファノス聖堂壁画」。聖堂ではそれぞれの絵画の場面や組み合わせや並べ方などにも意味があるから、このような形で鑑賞できるのは素晴らしい!
そしてジョットのフレスコ画で埋め尽くされているパドヴァの「スクロヴェーニ礼拝堂」。これは見たかった!天井の青の美しさが目に沁みる…。平面的な中世の絵画に比べると、モコモコっと生命力を持って立体になろうとするようなジョットの絵。囲まれて、ちょっとボーゼンとしてしまいました。現地では時間的な制約もあってゆっくりは見れないとのこと、とても贅沢な時間でした。
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そして、祭壇画の復元も…!
まずエル・グレコの宗教画6点、いまはバラバラに展示されている作品(5点はプラド美術館、1点はルーマニア国立美術館)を、ひとつの祭壇画に仕立てたもの。(これは実物ではないそう)
また、ファン・エイク兄弟による《ヘントの祭壇画》や、ボスの《快楽の園》など、開け閉めができるようになっている祭壇画そのものを再現。「快楽の園」は自動で開いたり閉まったりしてました。なかなか見る機会のない裏側の絵なども実物大で見ることができます。貴重!
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ルーベンス(美術館ではリュベンスと表記)の《キリスト昇架》は、ものすごい迫力です。「フランダースの犬」とともに紹介されていて、しんみりする人多し。《キリスト降架》も見たかったんだけどな〜、それはありませんでした。あんな巨大な絵でキリストの奇跡などをグイグイ見せてしまう、当時の教会の美術への信頼というものを、ひしひしと感じてしまいます。
同じ主題の作品が一堂に。
展示でとても興味深かったのが「受胎告知」のテーマで描かれた作品が、ずらっと並べられていたこと。私はこの同じ主題でありながら、さまざまな表現のバリエーションがある「受胎告知」のポストカードを収集していまして、それが実物大で並んでいるのに大興奮。写真を撮りまくってしまいました。
やっぱり一番好きなのは、サン・マルコ美術館のフラ・アンジェリコ。図版では何度も見ていたのに、大天使ガブリエルの羽がこんなにカラフルだったなんて、初めて気づいた!そして、そのお顔がなんて優しく慈愛に満ちているんだ!すっごく顔を近づけて見れたからこそ、気づけたんだと思います。
聖母マリアと大天使ガブリエルの位置関係も、その時代背景やマリア様をどう見せたいか、などにより、こんなにも違うのだなとおもしろかったです。
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はっきり言って、マニアックな絵も満載。
最近、少し調べていたので、ヴェネツィア絵画を楽しみにしていました。
ジョルジョーネの《嵐(ラ・テンペスタ)》…確かに変な作品です。描かれている人物の不可解さばかりに注目していましたが、実際の大きさで実際の(実際じゃないけど…)の色彩を前にすると、風景の醸す不可解さと相まって、なんだかグッとくる絵です。
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この《老女》の雰囲気もすごくないですか?まるで生きているかのような写実性、これが1500年代初頭に描かれているの、信じられない!近代じゃないんですか⁈と思ってビックリしてしまいました。解説によると、本来は肖像画ではなく寓意画、かつて美しかった女性も時がたてば老いて醜くなる「時とともに」という言葉が書き込まれているそうです。ジョルジョーネ、恐るべし。それにしても、これらの作品をラインナップに選んでくれてありがとう!とお礼が言いたいです。
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今回、京都から高速バスで行きました。美術館の真ん前まで行ってくれるので至極便利です。音声ガイドは500円で、100点を解説してくれます。借りなくても、すべての作品に解説キャブションがついていますので大丈夫、時間はかかるけどね。私としては、その作品が実際は油彩画なのかフレスコ画なのかテンペラ画なのか、などの画材情報があれば、なお良かったなと思いました。
11時から16時半まで、休憩を除いても5時間たっぷりの鑑賞、それでも19世紀以降は辿り着けず…。時節柄、最後にピカソの「ゲルニカ」の前に腰掛けて、しばし戦争と平和について思いを馳せました。
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絵を見る体験とは。
やはり絵画を実物大で鑑賞できるのは、得難い体験。作品の大きさには、その大きさで描かれた意味がある。そこにも時代が写し出されているのだ。あと、図版で見ていたのでは、全然気づかない、細かいところまで見れるのも楽しい。画家は、そこまで描いているのだから。世界中を回らないと見れない名画たちを一堂に集めたこの美術館でしか体験できない、まるごと絵を感じること。とても素晴らしいと思います!
一方、やはり本物の作品を見ることは大事にしたい。例えばゴッホの作品を見た時の圧力というか衝撃というか、ホントによろけそうになるのは本物なればこそ。大塚国際美術館での体験が、豊かな美術鑑賞への橋渡しになるといいなと思いました。