沸かしコーヒー
「ホットコーヒーとアイスコーヒーを1つずつください。」
那覇の公設市場でおばあに注文したら、
『アイスは有るけど、”沸かし" コーヒーは時間かかるよ。今から沸かさないといけないさーねー。アイスにしたら?』
冷蔵庫の扉を開け、ペットボトルに入れて冷やしたアイスコーヒーを見せてくれた。
『沸かし』に対してはヤカンを指差していた。
「じゃあアイスふたつ。」
ちょっと待って、え? 沸かしコーヒー??
通じるけど、ホットコーヒーのことってわかるんだけど。ニヤニヤしてしまった。
例えば内地でお汁粉の事を、沖縄ではホットぜんざいと呼ぶのと同じくらいの、???感覚だ。
しかも、くちゃっとした笑顔で、2つともアイスコーヒーにすることを、こちらへ提案してくる。アイスかホットかは、私が選ぶはずなのに!
たぶんホットコーヒーはアイスコーヒーをやかんで温めるわけで、それが難儀ってことを言っているのだろう。
今や世界中でハンドドリップコーヒーが愛されているというのに。
アイスコーヒーは、おばあが作っているのかと尋ねたら、
『工場で沸かしたのを冷やしている』
とのこと。
要するに、業務用を冷蔵庫で冷やしてますよっ。ってことでしょう。
笑顔で「うちのは美味しいよ」と言われて、ふたつで300円を支払った。
そして私もつられて笑顔。ありがとう、と返す。
口元のゆるむ沖縄の魔法は、日常の至る所に垣間見れる。
ふとした安心や、ホッと心和む瞬間を、人はどこかで無意識に求めているのかもしれない。
梅雨のうだる空気が功を奏して、おばぁのアイスコーヒーは潤った。
空を見上げると市場のアーケードの隙間から、梅雨の合間の青空がキラッと光った。