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Chicken


下ごしらえ

はじめに、この本を手に取ってくださりありがとうございます。テーマはChickenということで、鶏肉の部位にちなんで書いていこうと思います。
Chickenには臆病者、という意味もあります。筆者の好きなバンド名にも使われている訳(やく)です。本作は、臆病者という形にもフォーカスしようと思います。
臆病者にも様々な形があると思います。
動けなくなってしまう者。目を瞑る者。最後には勇気を振り絞る者。受け入れている者。逃げ続ける者。気づいてすらいない者。
あなたは自身の臆病な部分を知っていますか?もし、考えたこともないとしたら、この本がその切っ掛けになればと思います。

鶏冠

“鶏冠(とさか)にくる”などという言葉がある。
まぁつまりは“頭にくる”という意味なのだが、いったい何に怒っているのだろうか。
【怒り】というのは、なんとも付き合いの難しい感情であって、そのくせ身近に潜んでいる。いつも非常に近くに。
事あるごとに“鶏冠にくる”ものだ。人間などというものは、感情のコントロールに乏しい生き物なのだから。むしろ振り回されている状態こそ、本質にあると言ってもいい。
しかし、もう疲れただろう、いちいち“鶏冠にくる”のは。
【怒り】という感情に込められたエネルギーは計り知れない。原動力に成り得るし、他者を不安定にもさせる。自分の感情が他人を変えるなどという現象は、あまり他でお目にかかれない。【怒り】はそれを可能にする。
周りで“鶏冠にきている”人がいれば、距離を置くだろう。もしくは観察してやり過ごすかもしれない。宥(なだ)めすかすかも、警察を呼ぶかもしれない。普段しない触れ合いが、生まれる。しかしそれはあまり好ましくない。
“鶏冠にくる”正体はなんだ?

他者をコントロールしたい。
自身の我儘を通したい。
感情を発露してスッキリしたい。
様々な理由があがるが、どれもなんとも自分勝手だ。
こういう輩の背景にあるのが、
自分を偉いと思っている、というものだ。

何を隠そう、筆者も怒りっぽい性格だった。
いや、未だ人と比べてそうかもしれない。
そんな我が身を振り返ってみれば、たしかに自分を偉いと思っている。どういうことか。
例えば、人より努力している。
人より時間をかけている。人より真面目に取り組んでいる。そんな“思い込み”がある。
そのとき、驕(おご)りが生まれる。他人より自分の方が偉いと思ってしまう。
偉いのに、“特別扱い”されない。
偉いのに“思い通り”にいかない。
そういったとき、人は“鶏冠にくる”。

なんとも寂しい理由だ。心の貧しい理由だ。
怒れば怒るほど、疲れ、痴態を広めている。
なぜ“鶏冠”にくるのか、鶏のように頭が真っ赤に燃えるからだ。まるで鶏なのだ、人のその様は。これを読む皆様は、心にお留め置きいただきたい。
【怒り】は『驕り』。
あなたに“鶏冠”などありますか?
あれば、筆者と共に、少し見直してみませんか。心の奥底にある、自分自身を。
他人を気にする余裕などあるか。本当に腹を立てているのは自分自身にではないか。自ら寂しく、貧しい方へ向かっていないか。他者を感情の捌け口にしていないか。

自分はそんなに、偉い人間か。

嘴(くちばし)に穴の開いたカラスを見たことがない。
横顔みたいに、嘴にぽっかり穴の開いたカラス。想像は出来るのだが。
何故見たことがないのだろう。考えた。
死ぬからだ。
嘴が無ければ、カラスは死ぬ。
なんとも味気ない言い方だが、事実だ。
それが自然の掟であり、法則だ。

美しい嘴。
餌を取り、食し、囀(さえず)り、啄(ついば)み、巣を作る。
時に天敵から身を守る矛や盾となり、
時に求愛の道具となる。

美しく、大きく、艶(つや)めく、嘴。

どんなに羽が黒くとも、
どんなに目が鋭くとも、
どんなに凛々しく佇もうとも、

嘴を失くしたカラスは死ぬ。
穴が開いたカラスは、、

嘴に穴の開いたカラスが見たい。
きっとそれはカラスではないから。

人間にとって、嘴とはなんだろうか。
嘴に穴の開いたカラスを、夢に見る。

ビー玉のような丸い眼で、こちらを見やる。
死んでいるカラスと目が合う。
それがまるで人間のように語りかけるのだ。
必死に羽ばたけと、背中をつつくのだ。
その嘴には、穴が開いている。
使い物にならぬ嘴で、他人の羽を揶揄(やゆ)する。
まるで人間みたいだと、夢で思う。
目が覚めてすぐ、いつもそれを探している。
嘴の穴を、探す。

きっと、あれは人間だ。
飛べなくなった人間だ。
そしてあれは僕の中にも、
きっとぽっかり空いている。

英雄の弱みはどこだ。
英雄の弱点を探していた。
英雄に隙はなかった。

英雄を嫌う者は探した。悪さを企んだ。
英雄を好む者も探した。心配だった。
英雄を慕う者も探した。教えるため。
英雄に憧れる者も探した。後を追うため。
英雄の弱みは見つからない。

英雄に弱点などないのだろうか。
英雄に誰かが問うた。
「英雄の弱みはどこだ?」

英雄は答えた。
英雄は言った。
英雄の弱みを教えた。
英雄に弱点はあった。

英雄の弱みは“翼”だと。

英雄は人か。
英雄は人だ。
英雄は天使なのか。
英雄は天使でない。
英雄は神の遣いだったか。
英雄は神の遣いではない。
英雄は“翼”が生えていない。

英雄を誰しも訝(いぶか)しんだ。
英雄を疑(うたぐ)った。
英雄を問(と)い質(ただ)した。
英雄は、答えた。

英雄の“翼”は心に生えている。
英雄の真の強さはそこにあるのだ。
英雄は剣を持ち、羽ばたく。

英雄にどんな困難が立ち塞(ふさ)がろうとも。
英雄にどんな悪が囁(ささや)こうとも。
英雄がどんなに挫(くじ)けそうになろうとも。
英雄は強い。
英雄は己の弱さを知っている。

英雄の翼は折れぬ。
英雄の翼は汚(けが)れぬ。
英雄の翼は広く。
英雄の翼は大きい。

英雄の翼は、それでも弱く脆い。

英雄は、
英雄は、
英雄は、だからこそ、高く羽ばたく。

ささみ

僕が健康に気を遣い、ささみなんかを食べるようになった切っ掛けは、公園だった。

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