コントレイルの軌跡

 2021年親子での無敗クラシック三冠を達成したコントレイルが年内での引退を発表した。

まだ引退していない競走馬のベストレースなんてものを語るのはいささか無粋な気がするが、私にとってコントレイルのベストレースは未来永劫変わる事がないので、しばし筆者の戯言に付き合ってもらえるとありがたい。

 ベストレースと言ってはいるがどちらかというと思い出深いレースという表現がしっくりくる感じだ。

そのレースは2020年ジャパンカップである。これだけだと後世の競馬ファンが口を揃えるような名レースであり、何をそんなかしこまって語るのだろうと思われるかもしれない。

しかし、そのジャパンカップ当日に私は人生の分岐点を迎えていた。

それは当時交際していた彼女(以下妻と記述)を田舎の両親に紹介した日であったからだ。

帰省自体が久々をいう事もあり筆者は故郷に錦を飾ってやろうというなんとも言えない感情で電車に揺られていたと記憶している。

そのような感情の中、電車の窓から見える故郷の景色は冬の寒さで澄んだ空気も相まってとてもきれいに見えた。

朝一で故郷に到着して、両親と顔合わせ、食事と談笑、祖父母の墓参りと祖父母に結婚の報告などをしていたらあっという間に夕方になり、気がつけば私と妻は帰りの電車の中にいた。

帰りの電車は日曜日という事で田舎の夕方の上り電車の割にはそこそこ混んでいた。私は疲れているであろう妻を先に座らせ、田舎を出てしばらくしてから空いた隣に座った。

やはり、妻は緊張で疲れていせいか座ってすぐに目を閉じた。私も疲れてはいたが、気分が高揚していたせいか目が冴えてしまっていた。

そのタイミングでスマートフォンを取り出し、ジャパンカップの結果を見た。

結果はアーモンドアイが有終の美を飾り、コントレイルは2着に敗れていた。無敗の三冠馬が無敗でなくなった瞬間であった。

そしてコントレイルの父ディープインパクトが初めて敗北した2005年有馬記念が頭をよぎったのと同時に私はそこからの15年間を振り返っていた。

人に自慢するような事も後ろ指をさされる事もない至って平凡な15年間だった。ディープインパクトの様に「日本近代競馬の結晶」と言われることもコントレイルの様に「親子での無敗クラシック三冠馬」と言われるような華々しい出来事などはなかった。

しかし、そんな事を考えている平凡な男が横を見るとこれから人生をともに歩み、守るべき「宝」がいた。

平凡な男が初めて手にした宝である。

2020年11月29日はコントレイルにとっては「無敗の三冠馬」でなくなった彼にとっては屈辱的な日であるかもしれない。しかし、私にとっては人生の分岐点を迎えていた日であり、これから守るべき私の宝の存在と尊さを再認識した日である。

これからの人生私がコントレイルというサラブレッドを思い返す度、この日の事を思い返すと同時に私の宝ともに描いてきた人生の「コントレイル」に思いをはせることであろう。



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