見出し画像

腰の重い木工職人


久しぶりに大工仕事をした。と言っても家のフェンスを昔ちょっと改造したところの木部がぼろぼろになってきたので修理しただけだ。

この前の週末に、ホームセンターで板と蝶番なんかを買って、あとは現物合わせだな、と。

現物合わせを現合というとちょっとプロっぽい、などとニヤつきながら、作業のイメージを考えておいた。

実際、イメージしていたものを現物に合わせて少し手順を修正しながら、結局午前中いっぱいかかってしまったけれど、基本、こういう作業は好きだ。特別手先が器用だということもないし、ああしようこうしようというアイディアが湧き出るタイプでもない。

飽きっぽいし。最後の方、まあこれでいっか、って済ますことも多い。使えればいいや。

昔から、例えば実家の増築とかで大工さんが来たりすると、その作業を見るのが楽しみだった。

墨壺(すみつぼ)なんか使ってるとカッコいい、オレも使ってみたい、て興味津々で飽かず眺めていた。

そんな子どもだった。

つい先日も自宅の修繕でハウスメーカーのカスタマーサービスの担当さんに来てもらったのだけど、下駄箱の扉の特殊な蝶番の交換作業を、あれこれ質問しながら楽しく見学した。

一応断っておくと、ぼくも最初は自分で直そうと思ってその蝶番を取り外すまではしたけれど、あれ?難しいぞこれ、と早々にギブアップして電話して来てもらったのだ。

分解したけど戻せないという正に子どもみたいなことになってしまったけれど、長年うちに来てくれているその長身の担当さんは、『ぼくらが難しい作業してるってわかってもらえて助かります』と笑っていた。

作業は外した扉のバランスをひとりで取りながら器用に、それも当たり前かもしれないけれど手際よく終わらせてくれた。

『会社の方針は、今はあまり社員自身が作業せずに、なるべく社外の職人を呼ぶようになってるんです』とその担当さん。

じゃあみんながみんなこういう難しそうな作業できるわけじゃないんですか?

『そうですね、それも時代の流れなんでしょうね』

それにしてもOさん(担当氏)、いつも『ちょうど部品持ってるから』ってすぐに直してくれるの助かります。

『そうですね、よっぽど専門的なもの以外は常に持ち歩くようにしてます』

プロだな、とぼくの頭の中でつぶやく。できるだけこの人に来てもらいたいな、と思う。長身が外見の特徴で昔はスマートだったけど、ちょっと横幅もついてきたな。

20年くらい前、転職をする前だったか後だったか、妻が読んでいた雑誌で前世占いみたいなのがあったらしく、ぼくのも見てもらった。

《アメリカ合衆国の中部から西部の乾燥地帯の木工職人、ただしあまり仕事熱心ではなかった》

雑誌の企画でそんなに細かく出るのかと少し疑問なんどけど、ぼくには妙な納得感があった。

思春期くらいからそのあたりの荒涼とした景色に憧れを持っていた。同じ乾燥地帯でもアフリカサハラ砂漠というよりは、アメリカ原住民、インディアン?社会的に正しい呼称については未だ悩むけど、いわゆる白人に迫害された方、彼らが太古から暮らす土地に。

そしてちょこっとものを作ったりするのが好きで。

その占いを聞いて、ホンマに?と聞き返したのをたまに思い出す。

久しぶりに大工仕事しながら思い出す。

肝心な作業の仕上がりは、うーん、左右にガタがあるかなあ、ここはもう少し工夫できるかなあ、見栄えがなあ、でもまあ自分らで使うだけだし。

…始めるまでの腰が重いうえに詰めも甘い。職業にはできんで。

ご先祖さん、もうちょっとなんかなあ、後々のこと考えて熱心に仕事できんかったんかなあ。あなたの子孫が困っとんじゃけど。

 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?