18回目 税務調査の在り方について 16

「税務調査の在り方 9 税務調査の心得(姿勢)」
 
 私は、『不正(悪事)は必ず暴かれ、必ず報いを受ける』と信じてやって来た。
 トラブルに巻き込まれるようになったころからか、『悪は手段を選ばないが、正義は手段を選んでしまう。だから正義は悪に勝てない』と思うようになってしまった。これを覆すことはできないのだろうか。
 税務調査官に必要なものは、正義感と調査能力と向上心であろう。これらの素養を身に付けるために、どのように心得るべきだろうか。
 まずは、自身と向き合って自分を知ることだろう。自分の性格、長所・短所、得手不得手、調査能力などだろうか。足りないところは補い、良いところは伸ばす。そして、その先へ進む。
 人生は砂時計に例えることができると聞いたことがある。砂時計には、残された時間と過ぎ去った時間が存在している。そして、何度でもやり直せるのである。希望の象徴だとか。
 税務調査がどんなものなのか、税務調査はどうあるべきなのかを踏まえて、では調査にどの様に臨めばいいのか。これまでに指摘したように、税務調査の環境が必ずしも整えられていないが、現状の中でどの様に向き合えばいいのか。
 『税務調査に王道なし』と言われている。税務調査の方法や向き合い方に絶対的なものはなく、人によって様々な向き合い方があるということだと思うが、私だったらどう向き合うのだろうか。
 税務調査は、ある意味頂上が見えない山のようなものではないか。初めて登る山でいつまでも頂上が見えなければ不安になる。今自分がどの辺りにいるのか分からなくなって道に迷ってしまうこともあるだろう。でも、予め登山ルートを理解した上で計画的に登れば、頂上が見えなくても不安なく着実に一歩一歩登ることができるはずである。
 税務調査を自分のものにするためには、税務調査の成功体験を重ねて行くしかない。そのためには、チャレンジを重ねるしかない。『自分で行き着いた答えは、自分の言葉になる』とも聞いている。
 税務調査の目的が真相の究明であるならば、真相を究明するために税務調査とどう向き合えばいいのだろうか。税務調査を行う者の心得について私の思うところを述べてみたい。
 では、どう向き合えばいいか具体的な視点をいくつか挙げてみる。
 
(1)税務調査を知ること。
 税務調査がどの様なものであるかを述べて来た。初めに言いたいのは税務調査を知ることである。そして、税務調査官に与えられている質問検査権の重さを十分に認識することである。
 税務調査は、限られた時間で行わなければならない。調査は足算になるが、調査事務は効率化が可能なので引算をすることができる。相反する命題になるが両立させなければならない。

(2)心証を育てること。
 次に、税務調査事案に対する税務調査官としての『心証を形成せよ』と言いたい。心証とは、「裁判官が事実認定について心の中に得た確信・認識」をいう。誰が何と言おうと、自分の心証を大事に育てるべきであり、そのための手段が税務調査であろう。
 何か気になった時、「まあいいか」で済ませないことである。気になった原因を納得が行くまで探求し、究明するのである。

(3)正義感(sense of justice)を持って、毅然たる態度で誠実(誠意)に臨むこと。
 正義感とは、正しいことを貫く意志・信念である。どんな事情があってもダメなものはダメなのである。正義感がない者に、いい仕事ができるはずがない。初心を思い出せと言いたい。
 使命感や責任感は、公務員なら当然になければならない。問題はそのレベルだ。普通レベルの使命感や責任感では、真っ当な税務調査はできない。正義感が使命感や責任感を大きく育てるのだ。
 正義感と言っても色々な捉え方がある。私がイメージする正義感は、かつて先輩から教えられた『素朴な正義感』である。素朴な正義感とは、エゴやしがらみのない純粋な正義感である。その正義感はひとり善がりのものであってはならず、課税の公平の理念に立脚したものであって、法令を遵守した正当のものでなければならない。最後は人格と人格の勝負になる。税務調査官としての人格が身に付くかどうかは、真実が知りたい(探究心)という思いの強さ(素朴な正義感)がどれだけあるかだ。熱い心、熱意がどれだけあるかだ。そして、自分の仕事にどれだけ誇りが持てるかだ。誇りと情熱を持つのだ。
 そして、社会正義にこだわり、社会正義を追い求めよ。見て見ぬ振りをしてはいけない。相手の対応によって結果が違ってはいけない。これは、警察や検察だけじゃなく、国税も同じである。税務調査官は、納税者、税理士、組織などから圧力が掛かっても、決して屈しない強い正義感を持たなければならない。一貫した正義感。それが矜持となる。そして、自分は正義を貫いているという自信と自己満足がモチベーションを高めるのである。
 正義感とともに大切なものが、毅然たる態度と誠実(誠意)さである。
 毅然たる態度とは、偉ぶることもなく、へりくだることもなく堂々と信念を貫こうとする態度ではないか。
 誠実(誠意)とは、真心だというと大袈裟だが、謙虚さと敬意をもって人と接しようとする気持ちではないか。
 
<他から学んだ格言②>
『義を見てせざるは勇無きなり』
『飛べるかどうかを疑った瞬間に、永久に飛べなくなる』
『見たい風景と見える風景は違う』
『失敗は、忘れるのではなく積み重ねて行くもの。無かったことにするのではなく積み上げて行くもの』
『一度目は過ち、二度目は生き方。良心の呵責はないのか』
『過去は変えられない。でも、これからの生き方で過去の意味は変えられる』
『失ったものは二度と取り戻せない。でも、別のものなら取り戻すことができる』
『昨日の夢は、今日の希望であり、明日の現実となる』
 
<続く> 次回は、「⑷プロ意識(自覚、プライド)を持って、術を身に付けること。」からになります。


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