地図を作る
会社の中での仕事というのは、与えられた役割を果たすことである。ただ、この役割を実行しているだけでは実はあまり意味がなく、役割をこなしつつもっと他のこともやらなければならない。僕は社会人になってから10年近くの間、実はそのことに全く気づいていなかった。
今考えれば当たり前のことなのだが、それに気付くのが遅れたことで、随分と遠回りをすることになる。そんな半ば後悔ともいえることを振り返りつつ、これから仕事をしていく人たちに伝えたい。仕事というのは、役割をこなしつつ地図を作らなければいけないのだ。
僕は会社に入って最初に仕事を始めた時、とりあえず与えられた役割の作業をこなすことに取り組んだ。これはごく当たり前のこと。学校を卒業して就職し、研修期間を経て配属された職場にはいる。そこで最初にやるべきことは、与えられた役割をこなすことだ。
まずは自分がやるべきことを認識し、それをこなせるようになること。これが社会人になって最初に取り組むべきことであることは当然のことだ。
各職場はそれぞれ機能を持っていて、その機能の一部分を自分が担うことになる。自分の役割をきっちりと果たしていくことは、当然やるべきことであり、重要なものだと思う。
ただ、ここで気をつけなければならないことがある。それは自分が果たすべき機能は全体の中でどこに位置していて、それがどんな意味を持って次の工程へとつながっているのかを知っておくことが非常に重要だということだ。これが僕のいう「地図を作る」ということの意味だ。
「作業」をこなすことは最低条件であり、その自分の工程の先や、あるいは自分の役割の前にある工程の意味や内容を知っておくことが必要だ。その前後の工程に関する知識がないと、こなしていく自分の「作業」が的外れなものになったり、あるいはせっかくやった「作業」の価値を下げることになる。
まずは与えられた「作業」をこなす。そしてその前後の工程の内容や意味を知る。そしてその地図をどんどんと広げていき、可能な限り自分の中にその組織が行っているビジネスの全体像を認識していく。これは簡単な言葉で言うと「視野を広げる」と言うような言葉になるだろうか。
ある程度大きな会社の中で仕事をすると、他の部署が何をやっているのか全くわからないまま日々仕事をしていくことになる。特定の役割に関してスペシャリスト的な立場で仕事をしていくのであれば、前後の工程や会社全体のビジネスについての知識は持ち合わせていなくても価値を発揮できるだろうが、残念ながら日本の会社ではスペシャリストよりもゼネラリストが重宝されるのが実態だ。これは昨今の終身雇用の崩壊やジョブ型雇用の促進などで徐々に薄まっいくだろうとは思うが、今の段階ではまだまだ色濃く残っている。特にそれなりの規模になっている会社は舵を切っていくのに時間がかかるし、これまでの人事ローテーション自体がゼネラリストを育成するように組み上げられており、そこから完全に離脱していくにはまだまだ時間がかかるのが現実だろう。
そうなるとできるだけ広い範囲を見ることのできる「地図」を手に入れておくことは、会社の中で生き抜いていく、あるいは認められていくためには必要な条件になる。
新しい部署に行ってからそこの仕事を知るのではなく、もともとその部署では何をどんなふうに業務を進めているのかを知っておくことや、本来それはどうあるべきものなのかを知っておくことは大切なこととなる。だから日々の仕事をしながら、地図を作っていくことが重要なのだ。
これは会社の中で仕事をしていくよりも、起業する時にはよりその重要性を増すことになる。起業してビジネスを立ち上げるのであれば、自分の立ち上げた会社がどんな機能を持っているべきかを知っておくことは当然必要な知識であるし、実は自分の会社の中だけでなく、参入していく業界自体がどんな構造になっているのかを知っておかなければ、すぐに市場から退場することになる。会社に入って仕事をするよりも、起業して自分でビジネスを立ち上げていく方が難易度が高い理由はここにあると僕は思っている。
作業をこなしながら地図を作る。これが重要。もちろん地図には作り方のコツもあるし、そのコツは、日常的な「作業」の理解度の向上を早めることにもつながる。
まずは地図を作ることを視野に入れて、日々の仕事に取り組んでいくことをお勧めしたい。