■厚労省が高齢者への新型コロナワクチン接種の優先順位付けを基礎自治体に丸投げしているという問題

■厚労省が高齢者への新型コロナワクチン接種の優先順位付けを基礎自治体に丸投げしているという問題
 私が勤務している病院は神奈川県秦野市にあり、慢性期の長期入院者がほとんどです。患者は地元秦野市、近隣の藤沢市/伊勢原市等がほとんど。(この文書にて秦野市などの固有名詞を入れない方がいいのかと数秒間だけ悩みました。しかし、ここに記載している事実・問題は全国の津々浦々で現実に起きている大問題だと確信されるので、解決のためには固有名詞ありの方が良いと考えてこのようにしている次第です。)
 さて、全国で高齢者の接種・予約が始まってますが、長期入院の高齢患者は在宅の比較的に元気な高齢者よりも優先されて当然だと考えられます。なので、私の勤務先病院のような慢性期医療病院にはいち早くワクチンが届くと信じてましたが、未だにいつワクチンが供給されるか全く不明。この問題を事実に即して説明し考察します。
 
▼日々直面している困っていること - 入院患者のためのワクチンがいつ届くか不明
 このところ、高齢の新患が入院するケースにて、ご家族が既に患者さんの接種を予約済みのことが増えてます。インフルエンザワクチンだと、長期入院の患者は入院している病院で接種しますが、なんと、新たに入院した患者さんの少なからずが病院の外で接種する予定になっているのです。ご家族の気持ちとしては一日も早く病気・障害を持つ患者さんに接種をしてほしいわけで、当然の対応ですね。
 しかし、患者さんは全く歩けない方がほとんどなので、病院の外で接種するためには、高額の福祉タクシーを用いて外出せざるをえなくなります。そもそも、患者と家族の面会は原則禁止なのに、ワクチンのために外出することで、家族から感染したり接種会場で感染するという不必要なリスクにさらされます。
 勤務先病院でのワクチン接種がいつから可能になるのか不明なので、新規入院のご家族には、患者さんの接種予約をしているか尋ねて、予約するように促すようにしてます、先週から。勤務先病院での接種が予約した日よりも早くなるとわかれば、予約を取り消して院内で接種することになると説明しています。
 高齢者の優先接種対象から、どうやら慢性期病院の入院患者は漏れているのではないのか?
 この問題意識で、本日、少し調査しました。

▼秦野市役所のワクチン窓口との電話でのやり取り(2021/5/18)
 まずは、新規入院患者が既に接種予約しているケースが増えてること、高額の福祉タクシー代を支払って、院外に家族と一緒に出るという危険をおかす問題を指摘。
 以下、このようなやりとりでした。一字一句精確ではないです。
私: 「秦野市は高齢者施設等の入所者は在宅高齢者よりも優先して、4/20から開始してます。もしかして、長期入院患者は高齢者施設等の入所者には含まれてないのですか」
窓口の人: 「はい、そうです」
私: 「厚労省の方針なのですか」
窓口の人: 「そういうことではありません」
私: 「私の病院には高齢患者が400人以上はいます。ワクチンが届くと、医者も看護師も十分な数いるので、速やかに接種できます。秦野市は慢性期医療の病院にワクチンを届けるべきことに気付いてないのでしょうか」
窓口の人: 「いいえ。調整中なのです。お待ちください」
私: 「長期入院患者は老人ホーム入所者と同じように持病があることが普通ですが、むしろ施設の人よりも病院の高齢者にはより脆弱な人が多いです。それなのに、4/20からの高齢者の中で最優先する対象にはなってなかったのですね。これは大変な問題なのですよ。そもそも老人施設には医者が存在しないことが多いし、看護師は昼だけいて、しかも1人くらいしかいないことが普通。政府は高齢者の接種を速やかにと言ってます。早く多くに接種するためには、病院の長期入院高齢者こそ最優先すべきだと思います。ご理解できますか」
窓口の人: 「はい」
私: 「長期入院の高齢者が後回しになっていることは、社会問題となりかねません。どうか速やかに解決して下さるように御願いします。上司に伝えてくだされば幸いです。」
窓口の人: 「うけたまわりました」

▼厚労省のワクチン窓口との電話でのやり取り(2021/5/18)
私: 「神奈川の慢性期病院の内科医です。新規入院患者には接種券が届いてて、家族がワクチンの接種予約している事例が増えてます。本来、長期入院患者のワクチン接種は入院している病院でするものです。しかし、病院がある秦野市からワクチンがいつ届くか不明。質問ですが、高齢者の優先順位を厚労省は基礎自治体に示してますか?」
窓口の人: 「・・。すみません、担当者に回しますのでお待ちください」(つまり、高齢者内での優先順位についてその人は知らない)
私: 「わかりました。このまま待ちます」(2分待つ)
別の担当者: 「高齢者の接種については自治体におまかせしております。特に、長期入院患者を優先するようにとかの指示はしてません」
私: 「やはりそうなのですね。これは深刻な社会問題となりかねないことを指摘したいと思います。高齢者の中で最も脆弱なグループは慢性期病院に入院している患者なのに、最優先すべきと厚労省が明確に指示することなく、自治体任せにしているため、混乱が生まれています。私は毎日のように、ご家族にこんな説明をしてます。"インフルワクチンのように、この病院で接種したいのですが、ワクチンが届く予定がないので、接種券が届いていたら予約してください。うちの病院で接種する方が予約日よりも早くなると判明したら、予約を取り消しましょう。もしも、病院でワクチン接種するのが予約日より遅れるなら、危険はありますが、高額の福祉タクシー代を払ってでも、接種するのが良いと思います"と。この問題は大変に深刻です。ご家族は医者も看護師も沢山いる病院で接種できないのはおかしいと思っています。ご理解できますか」
別の担当者: 「はい」
私: 「既に社会問題化しつつあります。マスコミが大々的に取り上げる前に、真剣に対応して欲しいです。高齢者における優先順位付けをしなかったことはミスなのですが、私にはそのことを非難する気持ちよりも、速やかに都道府県と基礎自治体に適切な通知を発するなどの対応をして欲しいという願いが強いです。どうか、専任者この問題を知らせてくださるように御願いします」
別の担当者: 「わかりました」

▼参考: 神奈川県藤沢市の正しい対応
 さきほど知りました。藤沢市は4/19から医療従事者と高齢者の並行接種を開始していたのです。
神奈川新聞の記事(2021/4/19) → https://www.kanaloco.jp/news/government/article-474381.html
 "医療従事者に対するワクチン接種を継続しながら、慢性期病床などに
 入院している高齢者への接種を各病院で進める。5月には同じ病院で
 2回目の接種を予定している。"
 藤沢湘南台病院、クローバーホスピタル等の慢性期病院の高齢者を最優先にしたのです。別の記事でわかったのは、在宅の高齢者については、5/10から個別接種の予約開始とのこと。

▼まとめ(提言を含む)
1) 厚労省は高齢者におけるワクチン接種の優先順位付けを基礎自治体に示すことはなかった(ネット検索してもみつからないし、担当者は正直にそう話していた)
2) 高齢者の中でも最も脆弱なグループである長期入院患者がいる慢性期医療病院の患者へのワクチン接種を最優先した藤沢市、そうはしてない秦野市の事例が示すように、基礎自治体毎にバラバラの対応になっていることは確実であろう。
3) 秦野市は4/20から老人施設の入所者への接種を開始し、藤沢市は4/19から慢性期病院の高齢者を開始した。どちらも在宅高齢者は次の優先とする点では正しいと思える。全国の自治体のなかには、両市のごとく、老人施設あるいは病院の高齢者を優先することなく、在宅高齢者だけにしか目が行かないところもあるのではないかと危惧する。
3) 老人施設や慢性期病院内での集団感染が全国で沢山おきている。最近、大阪では老人施設で発病した高齢者が病院に入院できなくて、20人ほどが死亡したことが報道された。新規感染者の数を効果的に減じるため、及びそのような悲劇を防止するために、中央政府は高齢者のワクチン接種の優先順位を都道府県と基礎自治体に通達(通知)すべきである、速やかに。

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