ロシアによるウクライナ侵略を最も早く終結させる方法
■ロシアによるウクライナ侵略を最も早く終結させる方法
ロシアとウクライナのNATO同時加盟あるいはNATO解散を米国が両国に提案することが最良。その中間として、ウクライナ国と米国がウクライナのNATO加盟は無いとの協定締結。
1) 今回のロシアによる侵攻は、ソ連崩壊後の米国(and/or NATO諸国)の対ロシア敵視政策(ロシアに対する約束違反のNATO拡大)が必然的にもたらしたのであり、責任の半分は米国・NATOにある
アイゼンハワーが警告したように軍産複合体が米国連邦政府を支配するに至ったから、つまり軍産の商売のためにNATOが解散されることなく、維持どころか拡大されてきたのは大きな理由だと思います。しかし、米国の民主党も共和党も軍産の金に依存しているとしても、余りにもNATO拡大は愚かすぎました。ケナンやキッシンジャーら米国における冷徹な戦略家は米国では尊敬されており、それなりの影響力がありました。彼らはNATO拡大に反対してきましたが、両党の有力者は警告を無視したのでした。軍産の金が欲しいとか軍産の脅しが強いので、仕方なくNATOを解散しないで、拡大してきたと民主党・共和党が言い訳するとしても通りません。
NATO拡大という過ちは軍産の金力のみでは実現してなく、米国の政治家・学者の劣化 and/or ずっと継続してきた姿勢にも半分近い原因があると私は思います。後者について申しますと、G.F.ケナンが言うところの道徳家的・法律家的姿勢です。ビスマルクや大英帝国は「勢力の均衡」(balance of power)のみが、諸国民の平和と繁栄を可能にするとみてました。戦争は勝者にも敗者にも宜しくないので、戦争だけは避けねばならないとの信念が先にあり、戦争回避のために現実的にどうしたら良いかの自問自答を歴史から学びつつしてきて、勢力均衡という地道な外交努力の維持が現実に必要だとみなしたのだと思います。現実には刻々と変わるので、条約の中味も条約締結対象国も変化させざるを得ません。とてもとてもややこしく、いつまでたっても解決はないわけですが、それが現実です。
国と国の間には友情などなく、いかなる国にも道徳は無く、すべての国は他国民を犠牲にしても国益を追求するという歴史的に明らかな事実を直視して、ある一国が強大になりすぎないように条約をめぐらして、必要なら軍事力を強化したり、自国の軍事力が強くなりすぎて他国が脅威を感じないような方策をめぐらしました。以上のような人間と国家機構についての冷徹な考察からしての勢力均衡政策の対極にあるのが、米国民の道徳家的・法律家的姿勢であり、いろいろな意味で非現実的かつ有害です。
「正しい」と勝手に米国民が信じるところの一般抽象的理念は、ほとんどの諸国に無いのに、そのような姿勢で現実の外交政策を断行しても実効的にはなりませんし、逆に他国の反発を買います。俺だけが正しい、俺の理想とする考えに従えと、他国民に言葉で求めることが無効なのはもちろんですが、現実の外交政策において交渉するのではなくして、経済制裁(禁輸など)を一方的に断行することが、言い換えると米国の言う通りにしろと強要することは相手国政府を頑なにさせて、かえって戦争の可能性を高めます。
ケナンは言いました。米国は規範を押しつけるのではなく、諸国民に対して模範を示すにとどめるべきだと。規範とは一般抽象的理念であり、規範を他国民に強要することはそもそも誤りです。規範とは一国の国民が自ら試行錯誤して過去に学び獲得するものです。個人にしても自らの行動を縛る規範は自ら選択することのみできるのであり、ある個人に対して国家が規範を脅迫付きで押しつけるとしても、その個人は内心では規範に納得しなくても政府が投獄する現実的リスクがあるならば規範を遵守するフリをするだけ。政府による脅迫が現実に効果無しとみなした時点で当該個人は規範を遵守しなくなります。個人に対して政府が規範を強要してもほとんど効果がないわけですが、米国が他国に対して規範を押しつけることはもっと無効の度合いが強いのは自明でしょう。
ケナンが言う模範とは、他国民が感銘するような米国の具体個別的有様のことです。米国が諸国民に示す有様に他国民が感銘して、模倣する気持ちになることを期待するということ。事実として、米国は数々の模範を全世界に示してきました。明治維新前の坂本龍馬は米国では国のトップを選挙で選出することに感銘。米国の立憲主義(国民が国家を制御するための憲法。米国大統領も軍人も憲法に忠誠を誓う。司法が行政府よりも強い)は諸国民の模範となり、少なからずの諸国民は米国の有様をみて、自国もそのようにありたいと願い、現実に米国の模範に模倣してきました。米国が諸国民に軍事力で強要したり、経済制裁で強要したりしたから、諸国民が米国的な立憲主義政体を模倣してきたのではなく、諸国民は自らの判断でそのようにしてきたのです。
ケナンが言う規範の押しつけではなく、模範を示すという原則は誠に真に良い考えだと思います。この点については、フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領の前任であったフーバー大統領も著作・論説・演説等にて幾度も幾度も強調してました。
NATO拡大という戦略ミスについては私の note に記してきました。こちらにいくつか論考が掲載されてますのでお読み下さい→ https://note.com/sawataishi/
2) ウクライナ政府にもミンスク合意を守らなかったという責任があり、ロシアの侵攻を招いたことについてウクライナ政府は深刻に反省しなければならない。
ウクライナという国は国民がヨーロッパ好きとロシア好きに二分されている国であり、そもそも地政学的な表現では二大勢力圏の間にある"緩衝国"ですから、ロシアあるいは西側のどちらかに偏ることなく、両者と友好的であることが国の存続には"客観的"に必須なのです。ウクライナはヨーロッパとロシアの架け橋として繁栄することができるのであり、そうすべきなのに、前政権から今の政権は真逆のやり方をしてきました。
ちなみに、ミンスク合意は2015年にロシア・ウクライナ・フランス・ドイツの四国による合意です→ https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB232E50T20C22A2000000/
親ロシアが主流のウクライナ東部の2地域に幅広い自治権を認める恒久的法律制定が四国で合意されたのに、七年にわたり約束をウクライナ政府は無視してきました。プーチンが侵略戦争を開始するにあたり、ミンスク合意はもう無いと宣言したことには正当性があります。ウクライナが先に合意を無視したのですから、ロシアが合意を破棄したことは当然のことです。この点についても米国政府には罪があります。ミンスク合意についてロシアは米国にウクライナに実効させろと言ってきたのに、米国は無視。同合意には米国が参加してないのですが、フランス・ドイツというNATO加盟国とロシア・ウクライナが締結した合意を米国が知らんぷりしてきたことは論外だと思います。
3) NATOにウクライナが加盟することがロシアからしてどう見えるか
ロシアからすると約束違反のNATO拡大が苦々しいのはもちろん。NATO拡大は米欧がロシアを敵視しているとしか見えません。それでもロシアはバルト三国やポーランドのNATO加盟については、約束違反ではあるものの、容認はしないとしても我慢してきました。ところが、ロシアと兄弟姉妹であるウクライナのNATO加盟は二つの意味でロシアからすると論外なのです。一つはウクライナこそがロシアの母であり、同時にロシアからするとウクライナはロシアでもある、これがロシア国民の認識。プーチンだけのことではありません。もう一つも重要です。これについては思考実験しましょう。
ソ連が今でも存在していて、ワルシャワ条約機構もあるとして、アメリカが勢力圏とみなすメキシコとかキューバがワルシャワ条約機構に加盟したいと表明したとします。ソ連は新たに加盟したメキシコorキューバに戦術核兵器、短距離核ミサイル、巡航ミサイルなどを配備することができます。現実にそうするかどうかはともかくとして、メキシコなどがワルシャワ条約機構に加盟する「気持ち」を表明しただけで、米国は激怒して「加盟するなら代償を支払うことになる」と宣言するでしょう。明白な脅迫をしないはずありません。昔、キューバがソ連のミサイルを配備しようとした時、米国は戦争を覚悟して阻止しようとしたことを皆様は記憶していると思います。
米国は近隣の「勢力圏」と米国がみなしている国に「敵国」がミサイル(核兵器であろうが通常兵器であろうか)を配備することを決して認め無く、断固として阻止しようとします。ロシアにとってはウクライナは長大な国境を接している隣国であり、そもそも歴史的に密なつながりがあり、ロシアはウクライナがロシアと友好的でないのは悲しいけどもそのことは仕方ない、せめて中立であって欲しい。それなのに、アメリカがウクライナをNATOに加盟させて、アメリカのミサイル(核弾頭を装備しようがしまいが)を配備することはロシアが絶対に容認できることではありません。アメリカがメキシコにロシアのミサイル配備を絶対に認められないのと同じ事なのです。
話を転じますと。北方領土問題の解決が日米安全保障条約が有る限りはあり得ないことも同じ事情です。安保条約は米国はいつでもどこにでも日本国内に米軍基地を創設する規定を有してます。プーチンは言いました。もしも、ロシアが島を日本に返還したとして、米軍基地を置かないと保証できるのかと。日本政府はその問いかけに対して沈黙。安保条約を改定ないし破棄しない限り、日本政府は確約できないのは当然のこと。
以上いろいろと語りましたが、諸悪の根源は NATO が不要になったのに解散しなかったことにあります。アメリカがNATO を拡大してきたことは論外です。ウクライナの NATO 加盟は認め無いと米国がロシアとの間で協定を締結するべきでしたがしなかった。そもそもウクライナのNATO加盟に関して、米国はロシアと真剣に外交交渉をしてなかった。戦争直前、プーチンはウクライナのNATO加盟拒否の文書による誓約を求めたのに、米国は無視して、経済制裁という攻撃・報復を宣言するのみでした。米国はロシアによるウクライナ侵略を望んでいたのか? もしこれが真実ならば軍産複合体支配が完璧に近いことと解されます。米国はロシアの侵略を本気で回避したかった? この場合は米国政府は過去の歴史とロシアについて余りにも無知・低能ということになります。どちらが真実にしても、結果としてロシアの侵略があり、ウクライナの民衆と兵士が犠牲になってます。プーチンの罪が最も重いのはもちろんですが、米国政府とウクライナ政府の責任・罪・過誤も極めて重いのです。
▼補足
欧米と日本におけるマスコミも「識者」の多くも、ロシア非難onlyであり、それどころかロシア人の音楽家を排除したりと、まるでかつての米国におけるマッカーシズムのごとき狂騒を呈してます。経済制裁の拡大一本槍であることも間違いだと思います。
私はこの風潮と政策をおおいになげきます。何故ならば、そのような風潮と政策は解決を遠のかせる作用が、解決に導く作用よりも大きいと考えられるからです。
私が敬愛する孫崎享先生(政治・外交評論家、元外交官)による優れた論考を紹介するので、是非ともお読み下さい
【ウクライナ危機】NATO拡大を止めることが解決の道(1) 外交評論家 孫崎享氏 2022年3月14日 -> https://www.jacom.or.jp/nousei/rensai/2022/03/220314-57498.php
-> https://www.jacom.or.jp/nousei/rensai/2022/03/220315-57529.php
私の知る限りですが、孫崎先生のような冷静な論考が日本の新聞、週刊誌、テレビなどに掲載されている事実を私は知りません。↑↑の記事は日本農業協同組合新聞に掲載されました。農協はTPP反対で孫崎先生が頑張ってこられたので、敬意を表して意見を求めて、大手マスコミとか与党・政府はもとより、「リベラル」とか「左翼」から非難されることを覚悟で掲載したのでしょう。農協の英断に敬意を表します。
日本共産党は孫崎先生の論考やインタビューをしんぶん赤旗に幾度も幾度も掲載してきましたが、ウクライナ危機についてはどうしたものか孫崎さんにインタビューする記事はこれまでのところゼロ。日本共産党は米国と同様に道徳家的・法律家的姿勢、つまりは一般抽象的理念を現実の国際問題に適用しようとする誤りを犯していると思います。日本共産党が今世紀になってから支持を広げている由縁は、規範(共産主義)をより強く宣伝しているからではなく、同党は具体個別的な諸問題に対して模範となる行動をしているからだと思います。規範を押し付けたいとしても、それはできないわけで、模範を示すことのみが支持拡大の唯一の方法であります。
私はマルクス主義とか社会主義・共産主義には賛同しませんが、日本共産党の現実の有様に感動しているので日本共産党大好きで、国政選挙では2011年以後は投票してきました。
日本共産党が勢力均衡という「時代遅れ」とみなされている外交政策について再検討することを望みます。
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