2021/10/18 本日のリーディングリスト
ニュースなどの拾い読み。
AIでモザイク除去しネットに 著作権法違反などの疑いで逮捕
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20211018/2010012412.html
AIで「無修正AV」作成 1千万円超売り上げか
https://www.sankei.com/article/20211018-727EO6KVMZOZBK3EK53GE7CVHQ/
「モザイク破壊」AIでアダルト動画を加工 著作権法など違反疑いの男逮捕
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/660396
AI使いAVのモザイク「除去」、容疑で43歳男逮捕―京都府警
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021101800472&g=soc
「モザイク除去」トレンド入り AIでAVを無修正のように加工し逮捕 技術力に驚くツイ民相次ぐ
https://news.livedoor.com/article/detail/21048356/
くだらないと思われがちな事件こそ、社会への視点やどう考えるべきかを試されるというか、情報の宝庫となる事例ですね。
アダルト動画は普通、しかるべき場所にモザイクがかかっており、これを「修正」と呼んでいるのですが、これをAIによる動画処理で「無修正」同様にしたわけです。これは技術の話。
そしてこの無修正加工を施した動画をネット上に保存し、お金をとって購入者にダウンロードさせていた。これは犯罪の話。
まず技術の話からします。記事によっては『解像度の低い映像を鮮明にする「TecoGAN」と呼ばれるAI』『不鮮明な画像を補完して解像度を上げるAI技術「TecoGAN」を活用した動画編集ソフトを使った』『テコガンはAIの学習機能を使って不鮮明な画像の本来の姿を予測し、高画質の疑似画像を生成できる』とあります。NHKニュースは特に詳しく解説していて、
「モザイク除去」の仕組みは、大量のデータをAIに学習させて、モザイクの部分を推測して再現させるもので、もともとは低い解像度のものから色や形を推定して高い解像度の画像に加工するための技術です。
(引用元:上記記事)
というだけでなく、専門家のコメントも引き出しています。
重要なのは、モザイク除去という理解しやすいキーワードが使われつつも「補完して」「本来の姿を予測し」「疑似画像を」「推測して再現」「推定して」という言葉が使われているように、実際は除去ではなく「推測して補完した疑似画像」をモザイク部分に描画して再現しているのだということがわかります。
果たしてこのAIは、どうやって「しかるべき場所」にいわば「それっぽい絵」を描き足すことができたのでしょうか?
記事文中に「TecoGAN」という名称が出てきます。「GAN」というのは「Generative Adversarial Networks」を略したもので、日本語では「敵対的生成ネットワーク」と呼ばれます。
もう難しくて面倒な用語が出てきて嫌になりますよね……。
でもここで腰を据えて単語を分解してみましょう。「ジェネレーティブ」ですからそこから類推して「ジェネレーター」と言われたら、お、なんか聞いたことあるぞ、生み出すやつだな、というのがわかります。生み出す=生成です。
では敵対的というのは? 「アドバーサリアル」意味分かんないですけど、「VERSUS、バーサス、VS」ならわかりますよね。猪木VS馬場、VS嵐、ゴジラVSメカゴジラ、あの「バーサス」です。「○○対××」すなわち敵対ですね。
ということで、わけわかんない英単語が出てきたけれども「何かと何かをぶち当てて生成しているネットワーク」ということはわかった。「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」(映画『貞子VS伽椰子』の名セリフ)というやつです。
今回はモザイク除去ですから、おそらくこんな処理をしていると思います。まず、インターネット上に存在するありとあらゆるエロ画像を集めておきます。
そして便宜上甲乙で呼びますが、AI(甲)に、「まあ、ここはこうなっとるんやろな、知らんけど」というノリでエロ画像を描かせます。次にAI(乙)に、集めておいたデータを参照させて「ちゃうちゃう、本物はこういうのをいうんや! そんなんじゃ抜けんわ」というご意見番を甲に対してさせるわけですね。
なお、AI(甲)(乙)それぞれ、実戦経験の無いウブな男子だと思ってください。妄想と集めたエロ画像で「こんなもんだろ」「そんなわけねぇよ、こうだよ」を繰り返す(敵対的、ですね!)うちに、甲も乙も学習して、そらで描き始めて正しいエロ画像を完成できるようになるわけです。我ながらひどい例えだな。ぼくがもうちょっと若い時分なら「蒼井そらでカク」とかくだらないギャグを混ぜていたと思いますが……。
GANという耳慣れない技術がどういう働きをしていたのか、技術の話がなんとなくわかったので、次に「犯罪の話」へ移りましょう。これ、何の罪なんでしょうか。
答えは記事中に書いてあるんでクイズにする必要もなかったのですが、報道によると「著作権法違反とわいせつ電磁的記録媒体陳列の疑い」なんですね。もちろん「疑い」なので、起訴から裁判に注目していく必要ありますが。
まず著作権法違反。これは当然ですね。AVというのは元々はモザイクがかかった誰かの著作物だったわけです。これを勝手に加工して販売していたわけですから、そりゃ著作権法違反です。
次にわいせつ電磁的記録媒体陳列。京都府警サイバー犯罪対策課と右京署が『同課は2月、サイバーパトロールでこれらの動画などを発見し、捜査していた。』というのがアツいですね。
この「わいせつ電磁的記録媒体陳列」というのは、今回はAVではありますけれど、リベンジポルノの話題で扱われる「私的に撮影した写真等」もこれに当たります。昔はブルーフィルムとか言ったもんですが。昔って、例が古すぎですか、そうですか。
とにかく、万民が軽率にいかがわしい写真を撮影したり保存したりクラウドやSNSにアップしたりできてしまう時代。一般市民とて、気をつけるにこしたことはありません。
昨年12月から今年8月の間、サイト会員約200人や動画販売サイトの利用者に、改変した動画約1万2千点を売り、約1100万円を得ていたという。
(引用元:上記記事)
単純に割り算してみると1本あたり1000円くらいなんですね。手間暇かかってそうなわりに、逮捕という結末を迎えたわけです。
ですが、今回のような明らかな著作権法違反である場合は別として、今後も「AIが描画したデータ」は一体何にあたるのか、ということが話題になってくると思います。ディープフェイク画像による、肖像権の侵害、事象の捏造などは想像に容易いですが、信じられないような使われ方で、果たして犯罪かどうかも区別しづらい、という事件が発生するかもしれません。
その時に、先日とりあげましたコインハイブ事件のように、社会や官憲が技術に無理解であることによって、いきなり人が曖昧な案件で逮捕されてしまうということが起こらないようにすべきです。
技術は技術。用いる人、用いた結果についてとは、区別していける社会を築きたいものです。
今日のところは以上です。勝手に盛り上がって勝手に息切れした感じです。
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