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【Web3書籍紹介】『Web3とDAO』(かんき出版)

本の情報

書名:『Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」』
著者名:亀井聡彦/鈴木雄大/赤澤直樹
出版社:かんき出版
ISBN:978-4761276171

https://amzn.to/3qpJU5r/

こういう人にオススメ!

  • Web3の熱気が胡散臭くて洒落臭くて受け入れられない人。

  • 地に足が付いたWeb3/DAO論を探している人。

  • ある程度Web2.0時代の動向やビジネスモデルに精通し、次世代のサービスの姿を企図したい人。

総評

 Web3/DAOの解説について、全般を通じて抑揚的なトーンで書かれており、他の書籍にみられる熱気に当てられたような箇所や、読者をその気にさせてしまえというような箇所は無い。ビッグ・テック(GAFA等)憎し、という態度でもないため、フラットな気持ちで読める。

 第1章で語られるコンピュータからインターネット、そしてWebに繋がる歴史の流れは、Web2.0で具体的にどんな問題が発生したかについてを含め、細かすぎず粗すぎず、Webはそもそも万人のものであった(あるべきであった)ことを再確認し、なぜ今Web3なのかを考え、筆者のいう「大局観」を得るのに充分なページを割いている。

 第3章での豊富な事例も、それぞれに入れ込み過ぎることなく「これはこういうサービス/システム/ソリューションである」ことと、特徴を淡々と記載してあるので、新技術をもって何が実現されているのかが掴みやすい。

 例えば「メタバース」においても、『"VR業界が培ってきた”メタバースと、"ブロックチェーン業界の"メタバース』(本書P.80より)と明確に分けており、『一企業が独占的に提供しているメタバースはプラットフォームにしかなりえないが、ブロックチェーンを利用したメタバースであれば、プラットフォームを超えた存在となり、実世界に近い公共財(社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと)的な存在となりうる。』(本書P.82より)という部分に至っては、いまだにメタバースの本質を掴みかねている読者には、明瞭な良い補助線であると思う。

 章の構成も自然と理解が深まるようになっており、他書にありがちな強引なWeb3勧奨が挟まって興ざめするということもない。序盤で歴史の解説から現行のバズワードと事例紹介で読者の基礎知識のベースを上げ、第4章では利用者すなわち個人がWeb上でどのように振る舞い、プラットフォーム側から扱われてきたかの変化が示される。

 ここも、例えば「信頼(トラスト)」という考え方を、プラットフォームから個人に引き寄せて段階的に考えられるように文章が編まれている。これを理解できたところで次にNFTを絡めてくるので、一度に多数の要素を例示されて混乱するようなことがない。よくできた学習参考書のようなステップが踏まれている。

 こういった書籍としての基本的構成がオーソドックスながらもしっかりしており、新技術に初めて触れる人でも順序立てて「自分ごと」として読み進められる。

 書名にもあるようにDAOをトピックの中心に据えているため、Web3のお題目である「非中央集権」について、組織や社会にどのように実装されるかが丹念に展開されている。これは他の書籍が、DAOについて「投票権のあるガバナンストークンによって民主主義が実現される」程度の、デジタル学級会レベルの紹介で済ませていることとは雲泥の差だ。

 特に第6章からの怒涛の展開は、それまでの章を読み込んでいることで、全身にWeb3/DAOへの知見を浴びることができる。世に蔓延るふわっとしたWeb3解説では得られない充実感がある。

 本書を読み終わった後に「Web3とは何か?」「DAOとは何か?」を聞かれたならば、読者が自身で咀嚼しつくした回答を出すことができるのではないか。

 そして、何がすでに実装され、何が空虚な妄想で、そしてこれからどういった目を持って関わっていかなければならないかというスタンスも、得られていることと思う。理解と観察眼を得られる良書。

各章の紹介

「何を書いてあるかはわかるが、どう書いてあるかは書籍を読まなければならない」という塩梅で記します。知りたいことや読み深めたいことがここにあれば、迷わず書籍を手に取るべき。

第1章 Web1.0で叶わなかった夢が、Web3で叶う

  • Web黎明期どころか第二次世界大戦中の暗号解読やノイマン型コンピュータあたりから、インフラ含めた「インターネット」誕生の話、そして現代に繋がる歴史の解説。

  • Web2.0で顕著になったプラットフォームとユーザーの課題、GDPR含めたプライバシー問題から、ブロックチェーン技術を手に入れたことでユーザーがデータを自らコントロールできるWeb3というトレンドに繋がる話。

  • インターネットの歴史を下敷きにした新たなWeb3時代到来への期待と課題解決・改善の道のり。

第2章 Web3のある生活

  • 短編小説。

  • ビットコインの売買経験程度はある主人公が、ブロックチェーンやスマートコントラクトの解説を後輩から受け、興味を深めるうちに、上司からNFTを用いた企画の命が下り、泡を食ってしまう。

  • とくにストーリーとして何らの盛り上がりがあるわけではない。(ぼくは小説家なのでここに厳しいのはご容赦)

第3章 Web3の全体像

  • Web3を取り巻いているバズワードのヨイショの無い解説。

  • 解説も簡潔だが、NFTの例として「CryptoPunks」「NBATopShot」「Bored Ape Yacht Club」、メタバースの例として「Decentraland」「The SANDBOX」、DeFiの例として「Uniswap」、GameFiの例として「Axie Infinity」「STEPN」、ソーシャルトークンの例として「RAC」「Chiliz」「Rally」、DeSciの例として「VitaDAO」、ReFiの例として「Klima DAO」にそれぞれ触れられており、レファレンスとしてのチョイスが良い。

  • 基盤となる複数のパブリックチェーンの存在を明示し、可能性を広げながらも、Web3は現段階ではグローバルニッチであると客観視。

第4章 個人がオーナーシップを持つ世界

  • 2010年代に普及したSNSの例から、Web2.0のプラットフォーム上でどのように個人がエンパワーメントされ、Web3へと繋がるシェアリングエコノミーによってトラストレス(トラストフリー)をもって「信頼」が変化していったか、我々はサービスにおいて何を信頼しているのかという観点を導く。

  • NFTと自己ウォレットの挙動から「署名(許可)」によって自己主権が実現されていることを解説し、プラットフォームのルールでは無くプロトコル(それを実装したスマートコントラクト)によって、オーナーシップを軸としたユーザーが排除されないインターネット社会が実現することを示す。

  • 利用者は、単なるユーザーからオーナーとしてプロトコルに関与することとなり、投機、コミュニティ、長期視野の3要素のバランスを持った人々がWeb3において群衆化されると説く。

第5章 「競争」から「共創」へ

  • 人間にとってのテクノロジーとは何かということについて「能力の外化」と定義し、能力の進化とともに社会も変容するならばWeb3が社会に与える内容は何かに迫る。

  • インターネットは社会インフラ・公共財であり、ここ2年で急速にデジタル化が進んだこと、公共財の最たるものがオープンソースソフトウェアだということ、その前提のもと検索サービスの隆盛やドットコムバブルによって、経済的・政治的な大きなインパクトをもって可能性を広げた。

  • 2000年代の前後から台頭したIT企業は「競争」をもって規模と価値を高めてきたが、Web3は「共創」を重視しており、全員参加のコラボレーション革命によって、新しいイノベーションが上乗せされると説く。

第6章 DAOとイノベーションの破壊的加速

  • Uniswapを例に、かつての巨大資本投下が必要だった会社とは違って、トークン交換事業をプロトコル化したこのサービスは、ソースコードがオープンかつ新規開発・新陳代謝のスピードが格段に速く、これはWeb3の長所である。

  • DAOは発展途上の概念のため定義付けは難しいが、中心がなく構成員それぞれがミッションを果たすことに邁進するコミュニティであると解釈し、Web2.0(一般的な会社組織)とWeb3(DAO)の違いを「ガバナンス」「プロダクト」「ソースコード」「利益」「データ」「参画機会」の各シーン別に解説。

  • 従来型の企業の成長し続けることを強要される仕組みに対し、Web3スタートアップの成立を文中でなぞり、DAO化がイグジットとなりうること、ガバナンストークンの配布やそれによるモチベーション向上とインセンティブによって、資本主義を超えるような社会への移行で脱成長社会の実現ができると説く。

第7章 DAOの入り方、DAOの作り方

  • DAOのカテゴリーについて8つの例を紹介し、その上でDAOエコシステムの歴史とイーサリアムを軸としたブロックチェーンの進化の歴史は不可分であるとする。

  • 具体的なDAOへの入り方(Uniswapなど)や、作り方(Aragon)を例に、実際にどのような形でDAO内コミュニケーションがとられるか、発生し得るトラブルはどんなものか、それらについて議論が行われていることなどを補足。

第8章 すべてのサービスが「プロトコル」になる未来

  • あらためてWeb2.0の巨大プラットフォーマーを例に挙げ、企業の意思決定の構造を解説して「ユーザーに主権はない」ことを浮き彫りにし、これをDAO型プロジェクトにするとどのように変わるかを解説。

  • プロダクトが企業の価値を支えていた時代から、公共財といえるパブリックプロトコルがインターネットのインフラとなり、サスティナブルな社会が到来する。

  • Web2.0時代はアプリケーションレイヤーの価値が大きかったがWeb3ではプロトコルレイヤーの価値が大きく、海に浮かぶ氷山に例え、表層のフロントエンドではなく海中にあるスマートコントラクト(プロトコル層)にこそ「自動化×収益性×公共性」の価値があるとする。

第9章 世界はいずれDAOになる

  • Web3は哲学が起点となっており、従来のマネタイズは不要。

  • DAOの資産は私的な資産ではなく、社会的な資産であり、何を残すかを決めるのもDAOの役割そして社会にもたらす価値。

  • Web3×寄付である「ギットコイン」を例の筆頭に、そのほか日本や海外でのDAOのロールモデルを紹介し、連綿と続き広がるWeb3への取り組みの中で、既存社会へのカウンターカルチャー的側面もありつつ、今後50年、100年の我々の社会のあり方の可能性を見つめ、読者への呼びかけをする。

(以上)

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