【Web3書籍紹介】『Web3.0ビジネス見るだけノート』(宝島社)
本の情報
こういう人にオススメ!
長い文章を読むのがつらく、絵でなんとなくわかった気になりたい人
業務には今のところ不要であるが、流行ってるキーワードなので知っておきたい人
これからの時代が盛り上がっていくとされる仕組みを知りたい人
総評
監修者が、以前褒め散らかした『メタバース さよならアトムの時代』の著者なので今回もと期待していたら、ことWeb3関連ではふわっとした期待感のみで書かれているページが続出で拍子抜けした。
主要参考文献を見ると、監修者の著作以外は、どちらかというとビジョナリー・概念解説系のもので占められていて、技術書や法制に関するものではなかったので、解説されている内容が「こういう未来が待っている!」に収束していくのは編集の方向性によるものだろう。
だが方向性は別として、内容に若干の不安があり、細かい表記や言い回しに行き届いてなさが散見される。
例えばP.18の『[前略]大きなものは、「Decentralized(分散型)」であるということです。分散型は非中央集権型とも言い換えることができます。』という箇所だ。普通なら「Decentralized(非中央集権型)」と先に言葉の原義に沿って記載し、わかりやすくするために「分散型と言い換えることができます」とするのが筋だろう。
近いところでP.19の図の右下のキャプションも、『参加者同士がつながることで、高い透明性を確保します。』とあるのだが、参加者同士がつながることと、透明性が確保されることの因果が不明で、これを一文でまとめてしまうのは、乱暴である。
その後のChapter3で説明されている「透明性」は、DAppsのコードがオープンだという話でしかなく、参加者同士がつながることで確保されるという話は出てこない。
P.27のアメリカで2021年に行われたWeb3.0に何を期待するのかのアンケート例など『[前略]「中国がテクノロジーでアメリカを追い抜くのを防ぐ」といった前向きな回答が見られました。』と、地の文でこれを「前向き」って定義してしまってよいの!? とビックリしてしまった。アメリカにとっては前向きかもしれないが、解説書籍の見地としては……。
こういった細かいトーンが合っていないので、あくまでまだ何もわからない人がおおよそを掴むためには向いているが「なぜ?」という疑問を突き詰められる人なら、最初から別の本を選択しても良いだろう。
よくSNSで盛り上がる「わかりやすい解説は重要なことが端折られていることが往々にしてあるが、入門者向けとはいえそれでよいのか?」「わかりやすくするために妥当ではない抽象化や、ざっくりとした比喩表現を用いてよいのか?」という議論がそのまま当てはまる。
さはさりながら、見開きページいっぱいの図解で手軽に読み進められるというのは他書籍には無いアドバンテージであり、文字ばかりの本を読むたびに「読者の理解が進むはずなのに、図の一つもつけていないのは何故だろう」と思うことが多かったので、これからWeb3を知っていこうという人であれば、難しい用語などが出てくる前に本書のイラストを通じてイメージを持っておき、適切な文献にあたってその脳内イメージを置き換えていくと良いだろう。
Chapter4までは定義や実際に稼働している技術やサービスの解説で、Chapter5はメタバースに多くのページを割いている。読んで理解が進むのはここまでで、Chapter6あたりから徐々にふわふわし始め、Chapter7と8は、急に雲を掴むような話になる。別のChapterに組み入れたほうがよいページもあり、多少の実例はあるが、ほとんど思考実験のような内容になってしまっていて、解説の解像度が落ちる。
そのほか、インターネット偉人伝というコラムが8篇ちりばめられているが、最後の最後に監修者を紹介していて、ズッコケてしまった。これらコラムの人選には、Web3.0の本なのだから、Web2.0を提唱したティム・オライリー氏、Web3.0を提唱しなおしたギャビン・ウッド氏、Web3がバズワードとなるきっかけを作ったクリス・ディクソン氏、Web3分野に投資しまくって現状の活況を作り出したa16zのアンドリーセン氏&ホロヴィッツ氏を取り上げるべきだろう。(いくらかは本文中に出てくるが)
惜しいところを挙げればキリがなく、多くの用語や事象を網羅しようとしたにしては、理想が過ぎて、初心者向けなのに観点が定まっていない人が読むと安易に流されてしまう。特に後半はビジョナリー的な未来想像図を含んでいるとしても、「強烈な思想人」が語っているものではないため、その未来が果たして訪れるのかということに確信が持てない。
こういう読後感を得てしまうのは、『メタバースとWeb3』にしても『テクノロジーが予測する未来』にしても、おおむね著者のキャラクターに立脚してこそのビジョンだったので清濁併せ呑む読み方ができたのだが、解説本としてキャラ性を希薄化した結果、二番煎じ、受け売り感が否めないからだと考えられる。信念と覚悟のあるキャラクターの言葉が重いのは、現実でも創作でも一緒だ。
ということで、この本を評するなら、鉄は熱いうちに打てとばかりにバズワードを慌てて解説した絵本。ということになる。初心者はここから入ってもよいが、業務や施策でWeb3をどうにかしようと考える場合は、他の情報源を当たったりは欠かせない。
各章の紹介
論を展開していく読み物ではないので、目次を引用する。他の書籍にない見どころがあるとしたら、Chapter2-04(P.40)「ビッグテック創業者からは懐疑的な見方もある」のページで、イーロン・マスク氏とジャック・ドーシー氏が、a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)を揶揄した件をしっかり書いているところだろう。だが入門書を読むくらいの人には、この痛烈な皮肉と、Web3騒動を読み解く観点はここからは得られないと感じる。
(以上)
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