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「小説」を『NFTアート』にしたら世界の見え方が変わった話

日本初。NFTアートとしての『NFT小説』爆現!

 2021年3月31日、日本で初めて「小説」が『NFTアート』として出品されました。誰がこんなことをやったのか。ぼくです。

https://opensea.io/collection/sawasion-japanese-nft-novels

 ぼくの作家デビュー作は、『ブロックチェーン・ゲーム 平成最後のIT事件簿』という、ジャンルでいうと「経済小説」です。ブロックチェーンとNFTを用いたゲームが生み出す莫大なカネを巡る陰謀を背景に、分散型のクラッキングが日本を襲い、それを有志が集ってトンチで解決するという話です。

 そんなこともあり、文脈として、ぼくはいの一番に小説のNFT化をすべき作家でなくてはならない、そんな気持ちが湧き上がりました。

 まあ、ブロックチェーンを題材にした芥川賞受賞作『ニムロッド』の上田岳弘氏のほうが相応しいと言われたら、すみません先にやっちゃって、としか言いようが無いんですが……

 プラットフォームに選んだのは、世界的に利用者がおり、世界中のNFTコンテンツが集結している「OpenSea」です。

NFTとは何か

 デジタルデータの一種で、ブロックチェーンにおける『ノン ファンジブル トークン(Non Fungible Token)』の略語です。ノンファンジブルとは「非代替性」と訳され、解説によっては、唯一無二のもの・一点もの、と記載しているところもあります。

 わかりづらいですね。ぼくも長い解説を一度ここに書いたのですが、面白くないので削りました。わからなくて大丈夫です。最初は「なんかデジタルのデータなんだな」って解釈でOKです。

NFTアートとは何か

 例えば絵画。キャンバスの上に絵の具で描いたなら、それはこの世に存在する一点ものと言えます。美術館にあるクラシックな絵画は、唯一無二といえます。

 絵描きさんが同じ構図の同じ絵を何枚か描いたとしても、あの有名な『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』の絵がこの世に複数枚あるように、一つ一つは厳密には違うものです。一点ずつしか存在しないということが、価値を形成する要素の一つになっていると言えます。

 逆に、元絵を撮影したりスキャンしたりして作られた画像データは、カジュアルにコピーして増やせます。メールやメッセージやSNSに添付して、どんどん拡散していくことができます。そういった画像データの価値は低いものとなります。高いお金を出して買うものではありません。(技術的にとんでもなく高精細だとかの付加価値は考えないことにします)

 そしてカジュアルにコピーされた絵のファイルが出回ったところで、相対的に、原本の絵画における「一点ものの価値」は保たれたままです。

 最近は、スマホやタブレットやパソコンで絵が描かれます。デジタル作画ですね。描いた絵のデータは、ファイルとして保存されます。ファイルになっているので、さきほどの元絵のように「一点もの」という状態がなく、いきなりコピーしまくれてしまいます。

 ブロックチェーンの仕組みを使うと、絵のデジタルデータをNFTにすることで、それを「(カジュアルコピーではない)唯一無二のもの」と定義することができます。コピーし放題だったデジタルデータの世界に、原本と複製は明らかに違い、それをブロックチェーンの仕組みにより証明できる、という世界観が生まれます。

 コピーされる宿命のデジタルデータ全盛の時代に「これはカジュアルコピーではないですよ」と示せるブロックチェーンという手段を用いた作品、すなわちNFTアートが現れる、というのは画期的なことです。

 余談。絵を例に挙げましたが、一つであるべきもの、改竄されて困るもの、契約や登記などにもこの技術を利用していこうという流れがあります。

NFTアートで最近起こったこと

 2020年初頭から数々の産業が停滞を余儀なくされていった中で、本来なら市中に投下されていたはずの資金が、投機の方向へと流れていくという側面もあり、ビットコイン(BTC)を始めとした仮想通貨(暗号資産)の需要が高まって、価格も高騰の一途を辿っています。

 2017年の日本国内における「億り人」的な狂乱、仮想通貨取引所から数百億もの仮想通貨が盗まれた、あの時代を覚えていらっしゃる方も多いと思います。『ブロックチェーン・ゲーム 平成最後のIT事件簿』という、流行を真正面から捉えた小説でデビューした作家もいるほどでした。←ここは笑うところです。

 その2017年末頃の価格ですが、ビットコインが日本円で約200万円。年が明けて2018年に一旦落ち着いたのでブームが冷えたように見えましたが、上下を繰り返しながら2021年には、なんと600万円オーバーへ高騰。

 そしてNFTを扱うにあたってポピュラーな仮想通貨イーサリアム(ETH)も、2018年末頃は日本円で1万2,000円程度だったのが、今では20万円オーバーになりました。空前の状況といえます。

 高騰していく仮想通貨を背景に、2021年3月に衝撃的なニュースが世界を駆け巡ります。

 詳しくは上記リンクの新聞記事をお読みいただければと思います。ツイート文章が3億円、NFTアートがなんと75億円。

 そして国内でも、この流れを象徴するような事例が登場。

 せきぐちあいみ氏はVRアーティストなのですが、ぼくとしてはテレビ番組『乃木坂工事中』で乃木坂46の梅澤美波さんにVRペイントを指導していたトレーナーとしての印象が強いですね……

 さらに満を持して、日本が誇る現代アーティストが参入!

 乗るしかない、このビッグウェーブに!

 ……というのが最近の出来事です。

小説のNFTアート化について

 冒頭に書いたとおり、2021年3月31日に小説の第一話をQRコード画像へ変換し、NFTとしてマーケットサイト「OpenSea」へ公開しました。全10話をアップロードした段階で、オークションを開始しようと考えています。

https://opensea.io/collection/sawasion-japanese-nft-novels

 小説は全て今回のために書き下ろしており、いずれもブロックチェーンをモチーフに、寓話か禅問答か、という切り口で書いています。

 なぜNFTにしたのかについては、「小説構成する文字列を頒布するとはどういうことか」という概念への探求と挑戦が含まれています。

 小説は、作家が脳内に描いた「形の無いもの」であると言えます。それをどのような形でアウトプットするか。当然、文字列としてアウトプットされます。しかしその先の選択肢はいくつもあります。

 文字列を単にデジタルデータにしたいのであれば、パソコンで執筆してファイルを保存すれば、それはもうデジタルです。

 無料小説投稿サイトに掲載することもできますし、出版・販売する手段として電子書籍があります。紙の書籍にこだわるなら、そこからPOD(Print on Demand)に繋げてもよいかもしれません。もっと凝ったことをしたければ、ノベルゲームを開発してリリースするなんてやり方もあります。

 もともと紙の書籍だけが存在したわけではないですし、紙の書籍だって活版印刷の発明以降に大量生産できるようになったというだけです。それ以前は、とても貴重な紙という物質に、借りてきた書物から手作業で写し取る時代を過ごしていたりするのです。

 そもそもが、形態が自由であった。そういうものかと思います。

 未来の形態の一つ、小説を掲載する媒体の一つとしてNFTがあり、今回はその姿を使った。ということになります。実際にやってみて、確かに小説はNFTアートの姿を得たし、この行為自体がアート領域でもあるのだなと感じています。

法的論点

 これは大切なことなのですが、我々はまだNFTというものについて「一体何を売ったり買ったりしているのか」の共通認識を持っていません。そして法的にNFTというデジタルデータは、どう位置づけられるのかという論点があります。

 これについては、弁護士の増田先生がとても良いタイミングでまとめてくれています。

 今回ぼくがNFTとして公開した小説は「QRコード画像」の姿をしています。PDFファイルではなくQRコードにした理由は、文章とNFTとの間に、ワンクッション挟みたかったからです。

 QRコードというのは単なる画像データであって、読み取り機能のある端末で復号しなければ元の文章は表示されません。ですから、ぼくはあくまで画像データをNFTとしてマーケットサービスに公開したのであって、復号された後の文章(=著作権が私にある文章)を販売するではない、という建て付けです。

 この建て付け、権利主張がどこまでどう有効かはわかりません。

 一般的にデジタルデータは有体物ではないので、日本ではそもそもこれについて所有権という考え方をしなかったりしますが、NFTを扱う各種のサービスは「所有権」が購入者にもたらされるデータを売っているのだと主張します。

 あるいは、NFT販売がすなわち著作権の譲渡ではないですが、それを理解しない購入者との争いが発生するかもしれませんし、しないかもしれません。

 このため、どこまで有効かは不明ですが、NFT小説の各話解説部分に「利用規約」として下記の記載をしました。

 本小説を購入することで、購入者のブロックチェーン・ウォレットに本小説が所有されます。
 購入者へは著作権を始めとした知的財産権は譲渡されず、沢しおん(以下「著作者」)が引き続き保有します。

「所有されます」とは書いてありますが「所有権を付与」「所有権を譲渡」とは書いていません。レトリックじみてはいますが、これも何らかの権利主張として有効かはわかりません。

 新しい技術が、さまざまな思索や議論を通じ、社会規範に照らされて正しく用いられる未来には、必ずこういうデコボコ道のような時代を過ごすことになります。今回も、そういう所からのスタートです。

NFTアートはバブルか?

 報道では、NFTアートは過熱している、バブルであるという切り口も見られます。

 2017年ごろに流行した『VALU』というBTCをベースにしたWebサービスを覚えている人もいるかと思います。VALUでは「人物のポテンシャルをBTC価値に置き換え、相場として可視化する」試みがされていました。ですが、空気を読まずに相場操作をするYouTuberが出現したことで一気にブームは冷え込みました。

 また、元々SNS等で有名であった人が「有名人パワー」をBTCに置き換える(=巻き上げる)ことができただけで、一般人が一般人のまま支援を得てジャンプアップするストーリーが描けた人は稀でした。

 そんなVALUも、最終的には改正資金決済法(2019年5月)によって、仮想通貨の国内カストディ規制に堪えられないという理由だったかと思うのですが、サービスは終了してしまいました。

 NFTが過熱することにより、こういったサービスの二の舞を踏むのではないかという論もあります。海外ICOブームも数えると、ブロックチェーンと価値を巡る「三匹目のドジョウ」ムーブメントなのかもしれません。

 ですが、バブルかどうかで言うと、まったくバブルではないと考えられます。著名人の作品に何億の価格がつこうが、それは「すでに著名人だったから」に過ぎません。

 確実な判定基準は1つです。ぼくの作品がバカみたいに高値で売れたとき、それはすでにバブルと言えます。日本で最初のNFTアート小説であり、そもそもブロックチェーンを題材に長編を一本書く作家の書き下ろしです。その文脈に気づけずに投機家の食指がピクリとも動かなかったとしたら、これはただの児戯です。VALUと同様、従来型メディアプレイに乗っていた者が巻き上げて去って行く図式でしかないということになります。それをバブルとは呼びません。

 ……もちろん、OpenSeaが英語環境なので日本人には難しく、じゃあ英語圏の人にはどうかというと、ぼくの小説や説明文が日本語で書かれているので難しいだろう、ということもあり……いやでも、言語関係なく買っちゃうのがアートだよな……アートか?

まとめ

 今回、小説をNFTアートにするにあたって、NFTとは何ぞやというところでとどめておけばよいものを、そもそも「物語を文字列として出力し、それを何らかの方法で公開する、可能であればマネタイズをする」というのはどういうことなのか、というところまで考えが深まりました。

 解釈の共有や法整備によって状況は変わっていくのだと思いますが、作家が何らかのしがらみに方向性を規定されることなく、NFTとして小説を流通することが一般的な手段の一つとなったなら、それはそれでまた色々な文芸の形を生み出せるんじゃないかと思います。

 ということで、オークションを開始し、無事に終了したら、また別途総括した記事を書こうと思いますので、ご興味ある方、ETHがダブついていて配るほどあるという方、ご入札いただけると嬉しいです。投げ銭もらうの大好きですが、できれば折りたたんで投げていただきたいという性格です。

おまけ:iOSでQRコードを読み込む方法

 iPhoneの「カメラ」でもQRコードを読み込めますが、専用のアプリ「コードスキャナー」がOS標準で内蔵されていることを知る人は少ないです。

 iOSで「コントロールセンター」を開きます。ノッチのあるiPhone(iPhone X、XS、11、12シリーズ)は、画面の右上に指を置いて下に向かってスワイプします。ホームボタンのあるiPhone(iPhone 8、SE2)であれば、画面の一番下から上へ向かってスワイプすることで表示されます。

 下記図の赤線で囲った部分がコードスキャナーです。これをタップすると、カメラと似た画面になり、対象のQRコードを写すことができます。

 正しくQRコードが読み取れると、下図のように、NFT小説が表示されます。

 もし、コントロールセンターにコードスキャナーのアプリが表示されていない場合、下記のようにiOSの「設定」→「コントロールセンター」をタップして選択します。

 下図のように「コントロールセンター」に表示したいアプリが一覧されます。並び順を移動したり、表示や非表示を切り替えられたりします。コードスキャナーがコントロールセンターに表示されるように、試行錯誤してみてください。

 以上となります。



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