「僕らだけが知っていること」が僕らに伝えてくれること(#創作大賞感想)
誰もが経験した幼少時代。楽しかった思い出、ふざけ合った思い出、寂しかった思い出など様々な記憶がある。本小説は、子供ならではの遊び「暗号文」を通して物語が展開される。相手が何を言おうとしているのか、知恵を絞って考えないと、暗号文を読み解くことはできない。解けた時の楽しさが、まるで自分の過去のように想像できる。
私たちもそんな体験をしなかっただろうか。授業中の目配せ、文通、伝言ゲームなど。限られた制限のなかで、私たちにしか伝わらない暗号があったのだ。そこには僕らだけが共有する楽しさがあった。
私たちは大人になった今でも暗号を使っている。表情や仕草を使って、言葉では伝えきれない感情を暗号文に乗せて伝達する。赤ちゃんが発する言葉にならないメッセージ。ペットが訴えるまなざし。子供時代に楽しかった暗号文が、日常生活のあちこちで使われているのだ。なんて楽しい世界だろうか。
あまりにも溶け込みすぎて、忘れていた暗号文の楽しさをこの小説が思い出させてくれる。その楽しさを思い出しながら、人と話をしてみたい。この人はどんな暗号を使っているのだろうか、私はどんな暗号で返してみようか。私たちの日常ってこんなに楽しいものなんだということを思い出させてくれた。