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隣のごくう その三 イタズラ好きの隣のばあさんに手をやいてます😮‍💨

隣のごくうは掃除好き。
ごくうの戦闘服は花柄のエプロンだ。
戦闘に必要とする重要なものは、如意棒であるが、ごくうが片手にもつのは、ただの棒ではなく、エプロンと相性のいいハタキ。
掃除用の、パタパタと音をたてながら、はたいてホコリをおとす、30センチくらいの棒に20センチほどの細長い布が何枚もついている、あのハタキである。
ごくうはハタキ使いのマスターなので、ハタキを使ってなんだって出来てしまう!

ごくうはハタキで話すことができる。

我が家の玄関先に近所の人がきて、立ったまま、楽しく話し込んでいると、突然、ごくうの家の、うちの玄関の横に位置する部屋の窓がガラッと開いて、バン、バン、バン、バンッ!と狂ったような大きな音で、何かをハタキ始める。掃除好きなごくうの家なので、ホコリなんて飛んでこないのだが、すごい剣幕でハタクから怖いし、とても感じ悪い。言葉を発さなくても「うるさい!早く帰れ!」とハタキの音を使って話しかけてくるのである。

ごくうのハタキは、ハチドリの羽である。

ある日、何やらムッとした表情で仁王立ちのごくうが、私の顔を凝視しながら、戦闘モードで片手にハタキを持っていた。顔も足も動かないのに、そこには動があった。よく見ると、ごくうの脇にぴったりくっついて、下を向いているハタキがすごい勢いで左右に動いていた。その姿はまるで、ホバリングするハチドリの羽だった。

ごくうのハタキは、窓を動かし、パネルを壊す。

我が家のトイレを改修工事した時、タイルをはがしたので、結構な騒音がした。
トイレはごくうの家側にあるので、うるさかったのであろう。大工さんが一旦、車をだして外出した折、施錠していなかった門を開ける音が2回聞こえた。しかし外を覗いても大工さんは見当たらない。変だなと思ったが、特に気にしないでいたところ、しばらくして大工さんが戻り、インターホンが鳴った。
さっきの音はなんだったのかな?と思ったが、特に聞かなかった。
夕方になり、今日の工事内容と翌日の予定を教えてもらった時、トイレの窓が閉まっていたので、
「窓は開けておいたほうがいいんじゃないですか?」
と聞いたところ、
「さっき、開けてから行ったんですけど、戻ってきた時、閉まってました。え、閉めましたよね?」
話がちぐはぐだった。
「いえ、私は工事中なので、トイレの中には入ってません」
「え、えー!?」
揃って声をあげた。その後、防犯カメラを確認すると、怒り狂った顔をしたごくうの姿があった。不法侵入である。
勝手に人の家の敷地に入ってきて、家の周囲を歩いてトイレの窓の下まで行き、開いていたトイレの窓を閉めたのだ。
翌日、工事の間に入った業者さんに伝えたところ、
「実は、しばらく前にごくうさんはうちの会社まで来て、三蔵さんちで何の工事をするのか教えろ!と言ってきたんです。もちろん、個人情報なのでお伝えしていませんが、受付がどうやってこの会社だとわかったんですか?と尋ねたら、駐車していた車を見た。と言ってきたんです。僕も、行くときは気をつけて!と会社から言われました」
背筋がゾッとした。ごくうの精神状態は異常だと確信した。
工事が終わり、トイレの窓を今までのように開けたまま用を足していたら、突然、揺れた。はっきりと揺れたが、地震とは違う揺れだった。何事だったのだろう?と思い、流そうと振り返ったら、なんと、窓が閉まっていた。声に出さなかったが、悲鳴をあげた。
しかし侵入してきた様子はない。
トイレの外に防犯カメラは付けていなかったので、ハッキリとはわからないが、おそらく体を伸ばして、ハタキで閉めたのであろう。
窓の問題はしばらく続き、こちらも精神的におかしくなりそうだったので、トイレの窓の外側にパネルを設置した。
その日以降、外からドンドン、ドンドン、ドンドン!!と叩かれるような音が何度もしたが、内側からパネルの向こうは見えないので、どうすることもできなかった。
ひと月ほど叩かれ続け、とうとうパネルの一部が外れて落ちた!業者さんにすぐ電話して伝えたら、
「警察よんでください!これは間違えなく犯罪です!」
と言われたので、直ぐに警察を呼び、調査してもらった。
聞き取り調査のあと、指紋検証もしたが、何も出てこなかった。きっと、ごくうはハタキで叩いたのであろう。ハタキに指紋はない。
警官からは、
「犯罪を目撃していないので、犯人だと断定できませんがそれとなく、本人と話すことはできます」
と言ってくれたので、お願いした。
警官と話す、ごくうの弾むような声が聞こえてきた。いつも一人だから、誰かに向き合ってほしいのだろうと思ったが、犯罪者である可能性を帯びた人と向き合いたくない。
警官が帰る前に、隣にも聞こえるように大きめの声で
「スマホと連動できる防犯カメラを、トイレ側にも付けようと思います」
と大きな声で言った。

以来、ごくうはおとなしくなった。

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

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