GoogleMapで閉店を知る
好きだったお店があった。
飲食店が立ち並ぶ通りの一つのビル。
2階にあるそのお店は
カウンター4、5席に4人がけテーブルが2つ。
満員で賑わうというよりは
余裕のある雰囲気も楽しめる素敵な店だ。
今思えば入り口に飾った花は
月ごとに季節のものに替えられていて
そういったところも丁寧な仕事ぶり。
白板に書いてあるメニューは
旬のものがメインで、何があるかも楽しみ。
値段も振ってあるが大概適当だ。
あ、ぼったくるというわけではなく
「1人ならちょっと小さいサイズにしとくけ」
「もう使い切りたいけ多めに入れといたわ」
という類の、適当。
ウラを取る計算をしたことはないけれど。
落ち着いた雰囲気の店内で
店主だけはせわしなく、
手も口もよく動かす人だった。
60代のおじちゃんで、
無造作に生やした髭がしぶい。
料理も一段落したとき、
おじちゃんはタバコの煙をくゆらせる。
カウンター越しに何度も話をした。
「若ければ若いほど動き回らにゃ」
「したいことなんていつ決めたっていいんで」
諭すでもなく、押し付けるでもなく。
心が軽くなる答えを何度もくれた。
行く回数は多くはなかったけど、
顔を覚えてくれていて近況を聞いてくれた。
就職とともに一人暮らし。
1人の時間が不安になるようなときに
おじちゃんのところによく行った。
ちょうどいい話とおいしいごはん。
広島に来た親友を一度連れていったぐらいで
まさに教えたくない秘密基地であった。
年明けにGoogle mapで
タップしてお店の情報を見ると、
「閉業」のふた文字。
やめようかな、という言葉を
聞いてはいたが、ついに、か。
昨年、店を訪れたのが最後になった。
最後になってしまったその日は、
妻と、2人を引き合わせてくれたご夫婦と
4人で晩ごはんを探していた。
ピンときて、久しぶりの電話をした。
互いにおしゃべり好きな性格が
いい感じで噛み合ったのか、
夫婦とおじちゃんの話は弾む。
妻とのデートでも行ったことがないから、
妻をおじちゃんに会わせるのも初めてだ。
楽しそう、美味しそうな表情を見て、
「秘密基地を知ってもらえてよかった」
なんだか変な気持ちになった。
その時も、おじちゃんの適当さは健在。
4人サイズにボリュームを増やしたり、
小皿に持ってくれたり、
私以外お酒の飲めないメンバーで
少し機嫌を損ねたり(笑)
だから、辞めるなんて言葉も
詐欺みたいなもんだと思っていた。
ただ、ここでおじちゃんは区切りをつけた。
そのときに次にやりたいことを
話していたから、前を見ているとは思う。
ただ、おじちゃんの新しい基地を
私が見つけられるかは分からない。
一つ言えるのは、
おじちゃんの料理と適当さには
簡単には出会えなくなってしまったこと。
寂しいけど、最後に大切な人同士を
引き合わせられてよかったなと勝手に思う。
おじちゃん、これからもお元気で!
美味しいごはんに素敵な話、
たくさん僕の心を救ってくれました。
ぜひ、また、どこかで、、、!