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さわけんの空想科学料理レシピ#1 ゆで卵

空想科学料理は最適な料理の作り方を想像で書いたレシピです。
実調理を伴わない虚空のエッセイですので、ご興味がある方は実験をしていただいて可能でしたら結果をフィードバックしてください。

#1完璧なゆで卵

何かと使う機会の多いゆで卵。
巷にもステキな情報があふれていますね。
今回の希望は「卵黄の硬さを思い通りにして殻が綺麗にむける事」です。

と言う訳で今回はゆで卵を思い通りの火通り加減にして綺麗にむく方法を考えます。

卵について
まずは卵の固まるメカニズから見ていきましょう。
卵の可食部分は黄身と白身があり、白身は水分とタンパク質、黄身は水分とタンパク質と脂質、ほかでできています。

卵の構造

この中で加熱して固まるのはタンパク質です。
白身は加熱するとタンパク質が変化して絡み合って弾力のある状態に固まります。
黄身も同様の固まり方をしますが、固まる温度はタンパク質の種類によって違いますので白身とは違う温度で固まります。

白身にはオボアルブミンを中心にたくさんの種類のタンパク質があります。
一番多いオボアルブミンの凝固温度は高く75℃~80℃と高く、他のタンパク質の凝固温度が55℃位~と低い。

固まる温度が低いタンパク質を含んでいるので固まり始めが早く、高温にならないと固まらないタンパク質もあるので固まりきる温度が高くなるわけです。

黄身はタンパク質の種類が少なく、固まりはじめが65℃くらいで完全に固まるのが70℃程度です。

以上を踏まえて固茹でのゆでたまごを作るには卵を黄身も白身も80℃以上の温度に温めるとできます。これは簡単ですね。

・半熟卵について
今回のテーマはゆで卵の黄身を半熟から固ゆでまでコントロールする事。
半熟卵は黄身が何度になったらどのくらい固まるか?を考えます。

白身は固まっていて黄身が液状のゆでたまごは白身の温度は80℃以上で、黄身が65℃以下である必要があります。

黄身が半分固まったくらいなら67℃程度、ねっとり固めるなら69度~70℃位が適正でしょうか。

難しいのは黄身は液状からねっとり固形までの温度の幅が5℃位しかない事です。
かなりシビアですね。
そこをなんとか上手くできたらいいですね。

まずは火加減を考えましょう。
何度のお湯でゆでたらいいのか?これは結構重要ですね。

表面に近い白身は80℃を超えていれば完全に固まるので、80℃~100℃のお湯でゆでて周りから温度を上げて行って問題はありません。

問題は黄身です。

80℃~100℃で卵を茹でて白身の温度が80℃を超え、黄身の温度が65℃~70℃に上がるタイミングで冷却する事で半熟卵を作る訳です。

黄身の温度が65℃ならまだ液体で、70℃ならしっとり目に固まっている感じですね。

ここで一番難しいのが黄身の温度を知る事です。
本来なら黄身の温度を直接計り、いい温度になったら冷却したい所です。
が卵は殻もあるし生だとほぼ液状なので温度を計りながらゆでるのは不可能です。

困りますね。

となれば時間で黄身の固さを想像するしかありませんね。
ゆでる時間で黄身の固まり具合を判断する訳です。

しかし経験と勘だとあまりにも科学から離れるので、ここはしっかり数値化していきたい所です。

実際にゆでてみて中身を確認してデータを作る事で「思い通りの黄身具合」を再現できる様にしていきましょう。

ゆで時間のデータを取る
ゆで卵は調理の全ての条件をいつも同じにしておく事で、一定の黄身の固さに調整できる筈なので調理に関わる条件を揃えます。

卵は普段は冷蔵庫で保存しているとすると、冷蔵庫の卵室の温度が一定であれば卵の温度は同じです。

実際は季節によって冷蔵庫外気温が違うので、冬は庫内温度が低いかもしれません。念のため頭に入れておきましょう。

次は水道水です。
水道水の温度は季節によってばらつきがありますので、ここを一定にしましょう。

方法は「沸騰」させる事です。
水の沸騰=100℃なので、沸騰状態であればいつも同じ温度なわけです。

沸騰しているところに冷たい卵を入れてゆでると湯の温度は低くなります。湯の量と投入する卵の数によっては温度がかなり落ちるのでお湯の量は多めがいいですね。
火力も再沸騰までは強火で加熱した方が温度の低い時間帯を短くでき、黄身の固まる時間データの精度が上がります。

ゆで卵をゆでる図

あとは加熱時間を測って黄身の固まり具合を記録したら、そのデータを使って「いつでも狙った固さの黄身」にできますね。

大体これで狙った通りに卵がゆでられると思いますが、いつも一定にできない事もあるのでちょっと確認しておきましょう。

それは卵の大きさ問題です。
最近の卵は1パックに色々なサイズが混じっているミックス卵も多いので卵のサイズはバラバラな事もあります。
なので記録を取る時に卵の大きさもgで記録するとさらに使えるデータになります。

・卵をゆでる
では卵をゆでてみましょう。
卵が全部かぶり、ゆで時間(最大12分)の間、沸騰させ続けても卵が十分ゆでられる水深の水を沸騰させましょう。

入れる卵の温度が低いため、卵をお湯に入れた途端にお湯は冷めます。
なので少し余裕を持った量を沸かしましょう。

次に卵ですが、冷蔵庫から出した卵をそのまま熱いお湯に入れると内側の圧力が上がり、殻に亀裂が入ります。

殻にヒビが入ればゆでている間に白身が出てきて固まり、綺麗なゆで卵はできません。

そこで卵の殻の丸い方の殻だけにピンで穴を開けておきましょう。
殻に穴を開けておけば、内部の圧力が上がっても穴から空気が出て殻にヒビは入りません。
ピンは100円ショップで「卵の殻の穴あけ」なるものを売っているので買っておくと便利です。
つまみのある押しピンでも良いのですが、押しピンは針が長いので注意しないと気室の膜を突き破る可能性があります。
対策としてピンの根本に何か巻いて深く刺さらない工夫が必要です。

殻にピンを刺す位置と深さ

ちなみに丸い方の殻の内側は薄膜が殻から浮いており、空気の部屋ができているので、薄膜まで穴を開けなければ殻に穴を開けても卵白が出てくることはありません。

殻に空気穴があけられたらスプーンやお玉で卵を沸騰したお湯に入れます。
スプーンやお玉を使う理由は卵を入れる時、ゆでるお湯は水深があるので手で持って入れようとすると、卵1個分程度の高さからお湯に落とすことになり殻にヒビが入ります。
ヒビが入ると白身が出てきてゆでたまごの表面が荒れてしまいます。

なのでスプーンやお玉を使って優しく入れてあげてください。

入れたら強火のまま即時間を測ります。
入れた瞬間に沸騰が止まり、再沸騰までに時間がかかるとデータの精度が悪くなるので火力は強火にしましょう。
再沸騰したら沸騰をキープできる最小の火加減でOKです。

ゆで時間のサンプルはMサイズ(58g~63g)で5分、6分、7分、7分30秒、8分、8分30秒、9分、10分、13分でいいでしょう。

7分~9分辺りが変化の激しい半熟帯なので細かくサンプルを取り、10分以降は変化があまりなく、いわゆる「固ゆで卵」の扱いなのでサイズが極端に大きい卵以外は必要は無いでしょう。

このゆで時間で取り出して殻に時間を書いてしっかり冷却しましょう。

黄身まで冷ましてから殻をむいて半分に切り、時間順に並べて写真を撮りましょう。

これでゆで卵の茹で時間データができました。
この中から使いそうな黄身加減の加熱時間を覚えておくと一生使えますね。

こんなにたくさんやりたくない人は5分、7分、8分、11分の”さわけんお勧めセット”をやってみてください。

5分は白身のみ固まって黄身は完全な液状で、ピッツァトーストなど更に加熱する料理に使えます。

7分は黄身の中心がまだゲル状なので、ラーメンの味付け卵やスープに入れる感じです。

8分は固まっているがねっとりしているので、やはりラーメンの味付け卵ですね。

11分は浅めの固茹でで黄身は少ししっとり感が残っているはずです。
卵サラダなどに良いでしょう。

以上は卵の大きさと卵の投入時の湯の温度変化、再沸騰までの時間で多少ずれますので、自身の環境で確かめてください。

・卵をむく

ゆで卵の殻を綺麗にむく方法にも触れておきましょうね。
ゆで卵の白身の表面が壊れるのは白身の硬さと殻の割り方が関係します。
かける力が白身の固さを超えると壊れます。

殻を綺麗にむくには可能な限り白身に負荷をかけたくない事に尽きます。
殻をむき始める前にスプーンの裏などで軽くトントンと叩いて殻全面に細かくヒビを入れておきましょう。

卵の殻にヒビをトントン入れる図

スプーンの裏に限らず、全体にたくさんヒビを入れておくと殻が白身をえぐる事なく、薄膜をむくように綺麗にむけます。

ゆで時間が短いと卵黄が柔らかく、ちょっとした負荷で変形してしまい「えぐれる」事もあるので、半熟度合いが高ければ注意してむきましょうね。

卵の殻に穴を開けておいてスプーンでトントン全面に細かいヒビを入れて注意深くむいて尚かつ綺麗にむけないときは「新鮮すぎた!」と諦めましょう。

新鮮な白身には二酸化炭素が多く含まれており、白身を加熱して固めても少し柔らかい状態で固まります。

この二酸化炭素は時間が経つにつれて抜けて、ゆでると白身がしっかり固まる様になります。

なのでゆで卵の場合は卵をゆでる前に冷蔵庫で1週間ほど保管しておくと白身が固く固まる様になるはずです。

いかがでしたか、ゆで卵が上手にできそうな気がしてきましたか?
あとは実践あるのみですので頑張ってみてください。

空想科学料理レシピクリエイター さわけん

参考文献
卵の食品機能特性と調理利用学について 田名部尚子
マドリッドフュージョン05 卵が固まる温度について 福岡伸一
一般社団法人日本養鶏協会のホームページ


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