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さわけんの空想科学料理レシピ #2 トーストの焼き方

空想科学料理は最適な料理の作り方を想像で書いたレシピです。
実調理を伴わない虚空のエッセイですので、ご興味がある方は実験をしていただいて可能でしたら結果をフィードバックしてくださると幸いです

#2トーストを美味しく焼く

最近「美味しいトーストが焼けるトースター」がいろいろと発売されていますね。
トースターだけど2万円以上となかなかの値段です。

高いですね~。
それでも結構な売れ筋家電です。皆さんのトースト熱を感じますね。

そこで今回は最高のトーストを考えてみましょう。

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美味しい食パンとは


食パンが一番美味しいのは「焼きたてから少し時間を置いてパンから出る蒸気が落ち着いたくらい」が良いと言われる。

焼き立てとは表面が水分が少なく(水分含有量15%程度)ぱりっとしており、メイラード反応により色づいた香りが立ち、中身は湯気が出るほどしっかりと温度が高く、小麦の澱粉がしっかり糊化していてふわっともっちりしている状態(水分含有量40%強)である。

時間が経つと水分が量の多い中から少ない表面に移動し、蒸散もするのでパン全体の水分量が減り、温度が低くなってデンプンが老化する。

トーストとは

トーストは食パンを薄く切り、切断面を色よく焼いたものだ。
目的は焼き立てではないパンを美味しく食べる事。
色よく焼くのでトースト前のパンよりは香ばしく、サクッとした面積が多くなる。
そしてパンの中身は温度が上がり蒸気が発生し、小麦デンプンが焼きたてとは行かないまでも、ふんわりもっちりに戻る。

焼いて時間が経ったパンでも表面の水分量は少なくサクッと、中も水分量は減っているものの、ある程度糊化状態にもどして焼き立てに近い”フレッシュな状態”で食べられるステキな手法がトーストなのだ。

理想のトースト

美味しいトーストと問題点


美味しいトーストはパン内部の温度が上がりデンプンがα化しており水分が保たれたままで、表面はサクッと色よく焼けている状態だ。

しかしトーストにする「焼いてから時間の経ったパン」は焼き立てのパンより全体的に水分が減っており、デンプンも老化して固くなっているので中身のふわっとした感じやもっちりした感じは少ない。

焼き立ての様に「中身ふんわりもっちり」というのはなかなか厳しいのだ。

トーストの美味しさを担保するには、水分を適正に留めながら温度を上げる事が重要である。
この点を考慮すれば美味しい焼き立てに近いふわっともっちりした中身に加え、サクッとした香ばしい表面の香りと食感を味わえるはずだ。

ではどうやって水分を留めるのかと言うと2点ほど考えられる。
一つはパンを選ぶ事、もう一つは水分を補充する事。

新しいパンを選ぶ


まずはパン選び。
焼いてから時間の経っていない食パンを選ぶ。

当然と言えばそうなのだがこれは重要。
焼いて時間をおけばおくほど水分が少なくなっていき、デンプンが固くなっているはず。
パンを選ぶならトーストした時に中身がすぐに「もちふわ」に戻りやすい様に水分の多く残った新しいパンを選ぼう。

焼く前のパンの水分量は重要

次は厚さ。

食パンは4枚切り~5枚切りを選ぶ。

パンの厚さが薄いと中身のふわもち部分が最初から少なく、さらに焼くと水分の抜けも早くて「ふわもち食感」が期待できない。
なのでパンは厚いものが良い。

ただし厚すぎると上ヒーターに近寄りすぎて焼きムラができやすくなるので、ほどほどの厚みにしておこう。

具体的には6枚切りより5枚切り、もっと厚い4枚切りの方が美味しさを感じるトーストになる可能性がある。

加熱するとパン表面の水分が減り色づく

2つ目の方法「水分を足す」


水分の補給はパンの周囲に水分を足しておくと温度上昇と共に蒸気が発生し、一時的に蒸された状態になる。
デンプンの再α化には水分と温度が必要で、それらを熱伝導のいい蒸気で何とかしようという方法だ。

蒸気の力でパンの中まで熱くなり、その後の蒸気が減ったタイミングに短時間で表面に焼き色をつける事でサクっとふんわりもっちりが実現できる。
バルミューダを筆頭に蒸気系のトースターは正にこれなのである。

因みに蒸気系のトースターを買わなくてもパンに直接水分を与えても同じように焼ける。
レストランではパンを温めるときによくやっている手法で原価はそんなに掛からないのでお得である。

ただ問題は食パンの場合は表面に水をつけるとスポンジの様に水分を吸い込み、焼きムラの原因になる事だ。

これは微細スプレーを使う事である程度解決できる。
水分を微細な粒子状にして満遍なくパンの表面に薄めに吹きかけると焼きムラになりづらいのだ。

蒸気の観点で見るとパンを焼く枚数は多い方が良い。
パンの量が多いと発生する水蒸気も多くなり、蒸し効果が高まる。

裏表が綺麗に焼けることが前提ではあるが、蒸し効果だけを見るとパンは一度にたくさん焼いた方が蒸気量が増えて良い状態のトーストになる。

次に焼く道具。

トーストはトースターが一番いい。


トーストの目的は表面をいい色にサクッと焼いて中身をふんわりもっちりに戻す事だ。
理想としてはできるだけ早く両面を満遍なく焼き、中身を熱くする道具が必要なのだ。

トーストにするパンは焼く前に既に焼きたてより水分が少ない。
さらに焼くと温度が上がり水分が抜ける。

水分が抜けすぎると表面の焼き色の層が厚くなり「ふわもち感」が減り固くなっていく。
なので時間をかけて焼くのはNGなのだ。

かと言って表面を早く焼きすぎると中身の温度が上がらず、これまた「ふわもち感」は十分には戻ってこない。

なのでバーナーで一気に焼き色なんてつけると、香ばしいが「ふわもち感」が感じられないトーストになる。

ま~バーナーの場合は表面に焦げがすぐにできて、香ばしさと言うよりワイルドな風味になるので、アウトドア向けなら不可では無い気もする。

その場合は中身の「ふわもち感」は戻ってこないので、元からパンを薄く切ってカリサクを目指して焼くと良い。
そこに味の濃いベーコンやソーセージを薄く切って焼き、チェダーチーズと目玉焼きを乗せたら美味そうだ。

話が逸れたので戻ろう。

加熱器具は色が素早く満遍なくついて中身を十分温められる機能があるものが良いと言う話である。

現状パンを焼ける道具はトースター、セラミック板付きの焼き網、オーブン、魚焼き器、フライパンあたりだろうか。

オーブンは庫内が広すぎて余熱に時間がかかり、水蒸気も溜まりづらい=硬く焼けるのでNG。

魚焼き器は庫内はいい感じの広さだが魚用なので下火がないものが多く手間がかかる。
ガス火は水蒸気が出て良いのだが、構造的に水蒸気が溜まりにくいので外す。

焼き網とフライパンは注意力と料理的な調整力があれば焼き色はうまくいくが中身の温めに時間がかかり、水蒸気の保持はできないので表面のサクサクした層が厚くなりやすい。

熟練すればできそうだがテクニカルだ。

トースターはトーストを作る専用機なのでやはり簡単にできる。
庫内が狭く蒸気が溜まりやすいのもいい条件だ。
熱源も近めで早く焼き色もつく。
ここは順当にトースターがいいだろう。

トースターの中でも色々とポイントがあるので見ていこう。

ヒーターはグラファイトが良い。遠近が理想だが・・・


まずは加熱する管、ヒーターが重要だ。
トースターのヒーターは通常ガラス管で、通電すると温度が上がり赤外線も出す。
赤外線はパンに吸収されて温度が上がり、熱は空気を介してパンに伝わり焼けるのだ。

ヒーターの種類は色々あり、一般的な熱伝導の石英菅、遠赤外線系のカーボン、セラミック、ハロゲン、グラファイトが主なもので、そこに近赤外線系を組み合わせているものもある。
どれがいいかと言うと遠赤外線+近赤外線が一番理想的だろう。
遠赤外線は表面に吸収されて早く熱くなり近赤外線で中を温める。
そして表裏が早く色づくものがいいのだ。

ちなみに一番遠赤外線が出るのは意外とシーズヒーターだが、温度の上昇に時間がかかるのでトースターと言うよりオーブン向きだろう。
トースターとなると遠赤外線のグラファイトあたりが有力だ。

トースターのヒーター略図

早く焼けると水分が残りやすく「ふんわりもっちり」と焼き戻せるのでトースターにおいて速さと熱さは正義なのだ。

次は庫内の大きさとヒーターの数と密閉度を考える。
庫内の大きさは大きい方がパンがたくさん入っていいが、広いと問題も多い。
広いが故に火力がないとなかなか色付かず、焼き時間が長くなる傾向にある。
ヒーターの配置次第では焼きムラもできやすい。

焼き時間が長くなれば表面の水分が失われて焼き色の層が厚くなって固い仕上がりになる可能性が高い。
それは困るので大きい庫内なら色付けに十分なヒーターを備える必要があるということだ。
厳密に言うと数だけでなくヒーターの配置、反射板の角度などもパンの色づき速度に関係する。

そこまで考えると難しい話になるので、とりあえず庫内は広すぎず、ヒーターの多いものが良いと考える。

気にかけることはまだまだある。
次は密閉性だ。

蓋は蒸気を逃さない様な閉まり方がのトースターが良い。

パンは焼くと熱くなり蒸気を出す。
蒸気が出るとトースターの中に満ちて蓋の辺りからこぼれ出る。

この時に蒸気ダダ漏れのトースターは水蒸気がどんどん減って結果としてパンはサクッとなるが固い仕上がりになる。

まー実際にはそんなにダダ漏れのものは少ないが、密閉性の高い機種もあるので確認したい所だ。

あと窓は小さい方が良い。
ガラス面が大きければそこから熱が逃げるので、ガラス窓の小さいトースターが良い。

最強トースター(フィクションです)

サーモスタットについても言及しておこう。
温度の上がり過ぎを防ぐためにトースターにはサーモスタットの搭載が義務付けられている。

家電製品にはその他にも色々と決まり事があり、安全を担保しているのだ。

なのでどんな高級機でも高温になったらヒーターが止まり、余熱調理になってしまう。

これはトーストには最悪の展開だ。

ヒーターが止まると当然焼き色は進まない。
焼き色がつかないとトーストでは無いので必然的に焼き時間が長くなる。

焼き時間が長くなると水分が抜けて固い層が厚くなり全体的に固いトーストになる可能性が高まる。

安全が一番なのでサーモスタットに文句は言えないが、もう少し何とかならないものか。
愚痴っぽくなってきたので結論に急ごう。


最高のトーストを焼く具体的な方法

色々考えてきた事を総合すると最高のトーストを焼くためには、
・できるだけ新しいパンの4枚切りを

・庫内の大きさの割にヒーターが多くて裏表が早く焼ける遠赤外線と中を温める近赤外線装備の

・蓋がきっちり閉まって蒸気を閉じ込め、なんなら蒸気を補充できて任意のタイミングで排出できる機能のある、ガラス窓の小さい、

・サーモスタットが手動で切れるトースターで

・軽く霧吹きをして一回に焼ける最大量を詰め込んで焼くと良いと言う事になる。

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現実には手持ちのトースターで焼く事になるので、できる事はパンを選ぶ事と霧吹きを吹く事だ。

微細霧吹きはアマゾンで買えるので買ってもいいし、微細でなくてもちょっとムラができる程度なので手持ちの霧吹きを綺麗にしても良い。

効果は薄めだがトースト用の水を吸わせてトースターに入れるセラミックの製品も100均に売っているのでそれでも良いだろう。

実際にやってみると効果はあるはずなので是非試してほしい。

空想科学レシピクリエーター・キッチンまわり評論家・科学する料理研究家 さわけん

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