フリマアプリをきっかけに始める生前整理~あなたは何を残して何を手放しますか?~
みなさん、こんにちは。
さわかみ投信 運用調査部 アナリストの西島 国太郎です。
「アナリストと考える」では、最近大きな話題となっているニュースの数々や、今さら「知らない」とは言えないニュースの数々をアナリストの目線から考察します。
私たちアナリストの仕事は、日々社会の流れから経済の動きを考察し、みなさんの暮らしの基盤を支える企業を見つけ、企業価値を深く理解し、投資を通して育むことです。
ニュースに詳しい方も、普段はニュースなんて見ない、という方もぜひ一緒にこれからの社会を考えてみませんか。
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モノよりコト
「今の若い人たちはあまりモノを欲しがらなくなった」シニア世代が集まると、子や孫の世代に何か買い与えたくても、あまり欲しがらなくて困るという声が出るようだ。モノを買い与えたいのは、団塊の世代を中心とした日本の高度成長期を経験した世代である。日本が豊かになる様を消費の中で体験しており、消費は美徳という考えが根底にあるからだろう。
また、かつての「いつかはクラウン」という言葉が表すように、モノが持つブランド価値は自身のステイタスを表現する一つの手段でもある。一方でモノを欲しがらない世代は、平成バブル崩壊後の失われた30 年の日本しか知らないミレニアル世代やZ 世代に当たる。デジタルネイティブの彼ら世代は消費の軸足がモノよりコトに移っており、体験したことを SNS を通じて他人とシェアし、それを共感してもらうことの方を選ぶ。
シェアリングアプリ
そういった彼らの価値観に応じて、中でも近年大きく普及しているサービスに CtoC(消費者と消費者が直接やり取りする)のシェアリングアプリがある。CtoC での大きな動きはメルカリの台頭である。図1※1はヤフオクとメルカリの年毎の流通総額 (GMV)の推移であるが、メルカリが急速に伸びているのが分かる。これにはユーザーの属性とその使われが影響している。ヤフオクは40 代~ 60 代の男性中心のオークション方式であり、高く売りたい人と安く買いたい人との心理が働くゲーム的な要素がある。
一方、メルカリは10代~30代のミレニアル世代、Z 世代の女性が多く使っている。売り手には、捨てずに誰かに活かしてもらいたい、少額でもいいので欲しい人に譲りたいという心理があり、買い手には固定価額なので安心、納得して買うことができるメリットがある。値段が吊り上がるオークション方式のヤフオクの停滞を尻目に、値下げ交渉が可能なメルカリが台頭しているのは世相を表している。
コロナ禍における行動様式の変化
ところが調査※2によると、メルカリでは60 代の利用者が急増しているようだ。コロナ禍では行動様式の変化で各属性による消費に様々な変化が起き、外出を自粛した60 代におけるメルカリの利用、それも購入よりも出品の伸びが大きいことは大きな特徴的な変化である。同調査では、コロナ禍で60 代の過半数が「終活」や「生前整理」をより強く意識したとも回答しており、万が一の際に家族に迷惑をかけたくないという思いからフリマアプリの利用に繋がっている背景があると考えられる。
家族に迷惑をかけたくないのであれば、普段からモノを捨てればいいのではないか? 一見簡単なようだが話はそう単純ではない。かつて、「捨てる技術」や「断捨離」、「人生がときめく片づけの魔法」といった書籍がミリオンセラーとなったように、片付けは消費者にとって買ったと同時に背負う十字架のようなものであり、その宿業から逃れられない。「まだ使える、また使うかも」、「買ったお金がもったいない」、「捨てるのにもお金がかかる」という感情が絡み合いモノへの執着を生んでいる。それが積もり積もって片付けられない不要なモノの山になっているのではないだろうか。
フリマアプリ
そんなモノへの執着を解き放つきっかけにフリマアプリが最適だったというわけだ。フリマアプリにはモノを手放すためのいくつもの仕掛けがある。
まず一つは、不要なモノが必要とされる誰かの役に立つことである。都市への人口集中でご近所付き合いが減り、近所の子供にうちの子のお古をというような時代ではないが、フリマアプリを使えばまだ使えるモノが日本のどこかで必要としている人に巡り合える。誰かの役に立つことで手放す心理的負担も軽くなるだろう。
二つ目は、不用品がお金になることである。使えるモノにお金を出して捨てるのは抵抗があるが、アプリを通じてお金を出してでも欲しい人が見つかる。スペースが生まれ、お金が貰えるなら手放す価値はある。そして、最大の効用が「捨てなくていい」ことである。これまで、習得が困難とされてきた捨てる技術を身に付ける必要はなく、片づけの魔法も不要である。
真に大事なコト
団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降は、年間150万件の相続が20 年間も続く大相続時代になる。大量に残された故人の様々なコレクションの処分は当事者にとって大きな問題になるだろう。これまで大事にしてきたモノは三途の川を渡る舟には載せられないし、残された人にとって大事かどうかは定かではない。それならば、元気があるうちに想いがこもったモノの価値が分かる誰かに継承した方が、後顧の憂いが減るだろう。
そのためにフリマアプリは有効だが、それはあくまでもモノを手放すための手段であり、生前整理で本当に大事なことは、一つひとつのモノや関係を整理する中で自分の人生を振り返り、自分にとって真に大事なコトに気付くための作業ではないだろうか。
人生の最後に自分の手元には何が残るのだろうか? ライトなフリマアプリをきっかけに、気の重い生前整理を始めてみてはどうだろうか。
※1: Z ホールディングス株式会社 2021年 3月期決算資料及び株式会社メルカリ2021年 6月期決算資料より筆者作成
※2:メルカリ総合研究所『COVID-19 拡大に伴う60 代以上の意識・行動変化とフリマアプリ利用』調査
【初出:2022年2月15日】
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