投資家の責任
こんにちは。さわかみ投信の澤上龍です。
先憂後楽とは読んで字のごとく、「将来のために今頑張る」という、まさに長期投資を表すような故事成語です。
今日の楽しさばかりを追いかけていると将来に大変なことが積み上がっていきますが、将来のために今日をちょっと頑張ろうと決めて行動することが大切です。
この「澤上龍の先憂後楽」では、長期投資の思想を軸に、私が日々感じることや考えを書かせていただきます。
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投資家の権利と聞くと何を思い浮かべるだろう? 投資家ではなく株主の権利と言ったらわかりやすいだろうか。株主は企業の法人税支払い後の利益の配分を決めることができる。株主自らのための配当とするか、それとも今後の企業成長のための留保とするか、または頑張った役員への報酬を認めるか。企業の年間活動の結果の利益(純利益)は株主たる企業オーナーのものだ。また別の権利として、企業の定款(ルール)変更や取締役の任命等もできるなど、株主は企業に対し極めて大きな権限を持っていると言える。
絶大な権利を持つ投資家(株主)の責任とはなんだろうか?
権利の裏には通常、義務または責任がある。しかし投資家(株主)は有限責任であり、一般的な現物投資の場合だと拠出した金銭以上に支払う義務も責任もない。つまり出したお金を失うリスクしかないのだ。だとすれば、出したお金が増えて戻ってくることを最優先で求めるのは投資家として至極当然のことだろう。
他方で投資される企業の経営者は、従業員の生活や取引先他、最近だとSDGsに代表されるように社会全体に対し様々な責任を負っている。無論、従業員もその一端を担っている。それに比べて、企業に従事する人たちの命運を握る投資家が金銭リスク以上の責任がないとは、なんと不公平なことだと感じてしまう。例えば3月下旬の株主権利確定日に株式を持っていれば、その翌日に全株売却しても約3ヶ月後の株主総会にて株主権利を行使できる。企業からするとオーナーでもなんでもない人から権利行使されるのだから、もう権利と責任のバランス、そして時間軸も歪んでいるとしか思えない。
責任感を持った投資家が増えると?
ESGなど社会貢献型の企業を選ぶ投資手法がだいぶ普及してきた。適切な企業を選別し、長期で寄り添う投資スタイルが結果的にリターンの安定につながると証明できれば素晴らしい。今はまだ、流行による投資資金の集中がリターンの嵩増しを齎しているに過ぎないが、ESG投資の有効性が景気の波を経て見えてくると自然に企業と投資家の方向性が一致してくる。しかしまだその道のりは長い。故に別の方法として、企業は長期投資家を優遇する策を多用しても良いと思う。企業とオーナーに力の差があり、且つ方向性や時間軸にズレが生じることで、企業が本業による社会課題の解決に踏み込めずに持続性や長期の利益を逸しているのであれば、資本市場は本来持つ力を発揮できていないと思われる。
逆に投資家が責任感を持って投資をする文化が根づけば、未来は大きく変わるだろう。企業成長が齎す社会の富は幅広く多くの人の利益となる。そのような企業の成長を、責任感を持って支えた投資家がいくばくかのリターンを得ようとも、世間はそれを否定しないだろう。むしろ称賛するのではないか。投資家の義務や責任という言葉が重いのであれば、投資家の持つ可能性と表現しよう。責任ある大人が、消費でも投資でも、未来の可能性を追求できる社会にしたい。
[2021.12.23記] 代表取締役社長 澤上 龍
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