デンマークの新離婚法と子どもの権利
2019年4月1日、デンマークで新離婚法が施行された。この法律は、両親の離婚に際し、子どもの権利がこれまで以上に重視される画期的なものとなったという。
最も大きな変化は前文の内容。これまでは子どもに両親とのつながりを保障する、言い換えれば、どのようにして双方の親に平等に子どもとのつながりを保障するか、というもので、現在は共同親権が一般的となり、子どもは50%ずつ双方の親の家に暮らすのが一般的になっているが、新法では「子どもにとっての最善、子どもの福祉と保護」が中心、つまり親にとっては必ずしも平等ではなく、子ども自身にとっての最善が、親の子どもへの権利以上に優先されることとなったのだ。
デンマークでは1981年に現在の子ども委員会の元となる組織が立ちあげられ、その頃から子どもの権利について語られるようになる。1989年には子どもの権利条約が国連で採択され、デンマークでも1991年に批准。そして子どもの権利は親ではなく、国が保障するものとなった。1997年には、子どもへの体罰が法律で禁止され、2000年代に入ると、デンマークでも本格的に子どもにとっての最善とは何か、また子どもに関する様々な取り決めに子ども自身の視点を入れることなども議論されるようになった。そして今回の新離婚法では、子どもの最善という意味で、子どもの権利が(親の子どもへの権利よりも)優先されるという形になったのだ。
ヒューマンライツ研究所のアネッテ ヤコブセン氏はこの新法について「子どもの権利については様々な議論がある中で、国会でここまでその重要性を真剣に受け止め、法改正をしたことは素晴らしい」と認めている。こうして法律で子どもを中心にするということを明文化したことは大きな意味があり、これまで子どもは親同士の争いの対象として存在していたが、これからは子ども自身の立場が最優先されるのは画期的なことだと語っている。
新法ではその他にもこれまでの離婚法と変わった点がいくつかある。
離婚調停はこれまで弁護士が関わってきたが、今後は各離婚案件を緑・黄・赤と難易度によって色別し、緑(両親間に基本的な合意があり、離婚が難しくないケース)と黄(概ね両親間に合意があるが、やや複雑なケース)の場合は、家庭裁判所ではなく、新しく設けられた国の機関 "Familieretshus" で、コンフリクトマネージメントの専門家や、子どもに関する専門家、地方自治体の担当官などが関わることになった。そして家庭裁判所で扱われる案件は、赤に分類される、家庭内の問題が深刻なケース、例えば暴力や虐待、または親に精神疾患等がある場合等に限られることとなった。
離婚調停ではまた、子どもに毎回決まった担当者が付き、担当者が子ども自身の意見を聞いたり、アドバイスするなどして、子どもの意見が反映されやすくなるという。さらに、これまでは子どもの住所がどちらかの親の住所でなければならなかったが、今後は希望すれば、子どもの住所を複数登録できるようになるのだそうだ。
さらに新法では、離婚を決意した両親に対して3か月間の熟考期間を設け、子どもがいる夫婦の場合はその期間、オンラインで今後の新生活についてのアドバイスを受ける、準備期間とすることも決定した。
親が離婚した子どもにとっての最善とはなにか。それは歴史とともに変化してきた。できうる限り母親の元にいることだという考えが無批判に受け入れられていた時代から、両親とも平等に子どもと関わること(7日ずつそれぞれの親の元にいくという意味で7/7案と呼ばれる)を保障したデンマークは、次のステップで子ども自身を最前列に持ってきた。そもそも親の離婚を経験する子どもたちは、その状況を自分ではどうすることもできない立場であり、今回の新法ではそれが重く受け止められたと言える。家族がバラバラになることが決まっても、子どもたちがその後もずっと安心して暮らせることは、親、家族、そして社会的にも望ましいことでもあり、そのためにも子ども自身の希望は尊重されなければならないということだろう。
この新法、今後は人々にどのように受け止められていくのだろうか。子どもの最善を守るため、自分で意見が言えないほど幼い子どもの声はどう反映されていくのか。不満やフラストレーションを感じる親は増えるのか。そして、家族というものはどう変化していくのか。とても興味深い。