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心地良くないことを知ることは、性を考える第一歩

デンマークの性教育テーマウィークに、学校図書館でも低学年向けの特別授業をすることになった。同僚と教材を探し、ふと目に留まったのが「境界線」というタイトル。性教育と境界線、しかも低学年向け。いったいどんな意味でこの言葉が使われているのか、この言葉で低学年にどんなことが教えられるのか、私はすぐにはイメージできなかった。

身体、境界線、子どもの権利条約

「境界線」とは何か。わからないまま、教材を提供しているサイトで調べると、「ぼくの/わたしの身体」というタイトルの動画が表れた。https://vimeo.com/81721428

動画は小学校低学年向けに作られたものだった。男性ひとりと子ども2人が登場し、男性が子どもたちに様々な質問をしながら進めていく5分程度のもの。会話を通して、自分の身体について、境界線について話しながら理解を深めるというのが意図だ。どんな内容なのか気になり、すぐに動画を見た。

動画はまず「子どもの権利条約」について話すことから始まった。

「こんにちは。皆さん、世界には子どもに関する権利というものがあるのを知っていますか。子どもの権利条約といいます。それは例えば、すべての子どもは学校に行く権利があるとか、家族を持つ権利があるとか、幸せに生きる権利があるとかいったものです。でもその中には、他にもとても大事な権利があります。それは、すべての子どもは、自分の身体について決める権利がある、というものです。今日はそれについてお話しましょう」

男性は子どもたちに「『自分の身体について決める権利がある』と聞いてどんなことだと思う?」と問う。男の子は、自分が嫌なことをされたときに嫌だと伝えたり、やめてということだと答えた。そして、自分がサッカーをしていた時に、クラスメートたちが、他の子のパンツをずらす遊びを始めた時の話を始めた。「それをされたときどう感じた?」という質問に、男の子は「悲しかったし、嫌だった。お腹が痛くなったり、そこから離れたくなったし、叫びたくなった」と答えた。

このやり取りの中で、「境界線」という言葉が使われていた。

「自分の境界線を越えられた時、君はどう感じた?」という問いだ。男の子の答えを聞いて、男性は「周りの人に境界線を越えられると、それは身体で感じられるもの?」と更に質問を重ねる。それに対し、女の子は「それまでの遊びがもう面白くない、と感じた時が、境界線を越えたときだと思う」と答えた。

動画ではこのあと、キスをする遊びに巻き込まれて嫌だと感じた男の子の反応や、親戚のおじさんにきつくハグをされて嫌な気持ちになった女の子の例が紹介される。「こんな時はどうしたら良い?」という男性の質問に、子どもたちは、誰かに相談したり、自分で言える時はやめてと言った方が良い、と答えた。

心地良いかどうか 境界線は人それぞれ

性について低学年向けに話をするにあたり、まず子どもの権利条約を紹介するところから始めているのがとても興味深い。自分の身体で心地良くないと感じたら、それに対してはっきりNOと伝えることを、子どもがだれでも持っている権利だと教えている。

更に、「何をしてはいけないか」というような、特定の行動の良し悪しで語るのではなく、心地よいと感じるかどうかの「境界線」を子どもたち一人ひとりに意識させているのも興味深い。人によって境界線がどこにあるかは異なる。だからこそ、特定の行為を規制するのではなく、まず自分の心地よさのラインを意識し、そして誰にでも境界線はあるのだから、嫌なことを互いにはっきりと伝えることで、自分の身体について考え、互いの身体と気持ちを尊重しようということだ。これは多様性を原則とした教え方で、異なる者同士、互いを尊重しようという考え方が土台になっている。

毎年第6週目は性教育がテーマ

この教材は、性に関するあらゆることをテーマに活動している非営利団体、"Sex og samfund" (性と社会)が作成しているものだ。もともとこの団体は、望まぬ妊娠をする少女や女性たちを助けたいと立ち上がった女性医師たちが、家族計画を支援しようと1956年にできた団体だったが、現在は、身体や性に関するあらゆることや人々の持つ権利について啓発活動を行ったり、LGBTなど性的マイノリティーの人々の支援など、多岐にわたる活動をしている。毎年第6週目、2月の上旬は、その数字のデンマーク語"SEKS"をもじり、性教育に関するテーマウィークとする小中学校が多い。この時の教材を多く提供してくれているのもこの団体だ。多様性や子どもの権利を織り交ぜた性教育が、小学校低学年からすでに始められている。


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