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秘された歴史の諏訪信仰~長野県立歴史館の講演会動画紹介でもあります~(note書き下ろし)

 冒頭の画像は、松井優征先生の『逃げ上手の若君』(週刊少年ジャンプ)で主人公・北条時行の庇護者となる諏訪頼重。


 昨年、長野県立歴史館での「諏訪と武田氏」(令和四年度 秋季企画展)開催にともない、講演会がありました。私もぜひ展示と講演会とで現地入りしたかったのですがかなわず、図録を購入しました。講演会についても、参加申し込みページにあったとおり、後日YouTubeで配信されていました。
 図録の販売はこれまでもあったサービスだったとは思いますが、直接足を運ばなくても地方の講演会を動画で視聴できるとは、私のような在野の研究者にとってはありがたい世の中になったと思います。

 週刊少年ジャンプで『逃げ上手の若君』の連載が始まって以来、諏訪信仰が気になっています。演題は「中先代の乱と諏訪信仰について」です。絵詞や古文書の内容を踏まえ、地域の伝承や民俗を丁寧にたどって、諏訪信仰が中先代の乱を経てどのような展開を見せたかというテーマでしたが、大変興味深く拝見しました。


令和4年度秋季企画展講演会2「中先代の乱と諏訪信仰について」(静岡文化芸術大学教授 二本松康宏氏)


 つい1か月前にも、考古学から民俗学へとシフトしていった研究者の方の発表を聞く機会があったのですが、隣接する専門分野との間にある壁のようなものを破っていこうという方も増えているのだと思いました(…でも、まだまだ難しいということはおっしゃっていました。この動画でも、二本松先生が、歴史学の方法とは相違するスタンスに対して何度か遠慮される発言があり、ちょっと気の毒に感じました)。

 とはいえ、諏訪では昨年、『逃げ上手の若君』の主に諏訪パートの監修をされている石埜三千穂先生と諏訪の寺社がタグを組んで「諏訪神仏プロジェクト」を実現させていらっしゃいます(私も開催時に諏訪におじゃましましたが、どの寺社の住職の方も、神職の方も、大変研究熱心でした)。

 また、南北朝期以降の神仏とその信仰の衰退は歴史的な流れとしても、鎌倉北条氏と結びついて現人神であった諏訪氏は、その中にあってより切迫した状況に追い込まれたのではないかと思います。
 以前私は、歴史の敗者と歴史を陰で動かしていた一族のご子孫が集まっている会にたまたま参加したことがありました。そこでは、〝敗者は語れないことが多い〟ということを皆さんがおっしゃっていました。秘してつながれた歴史は、物語や伝承・民俗、そして実際に生きている人間の中に残されている(歴史学の対象から外される)ことで生き延びているという見方もできそうですね。

 さらに私は、価値観や行動の規範というものが、昔の人間と今の人間とでどう違うのかについて、十代の頃から知りたいと思ってきました。特に、中世の日本人は何を基準として考えたり行動したりしているのか、現代人と変わらないものもあるのかーー大人になった今でも、そんなの無理だし意味がないと言われても、知りたいと強く願っています(そういう変人は、在野研究のかたわらSF小説を書いたり、占いをしたりしているのがが一番しっくりきます(笑))。

 二本松先生は講演会の中で、〝『逃げ上手の若君』はとても面白い〟とおっしゃって皆さんにおすすめしていました。確かに、少年漫画としての魅力はもちろんなのですが、現人神としての鎌倉時代の諏訪氏や、諏訪という土地が持つ重層的で不思議な信仰、その基盤となる自然現象などなど、少年漫画的なストーリーに違和感もなく溶け込んでいくリアルな歴史の要素が満載だとしたら、おもしろくないわけないよな…と思います。

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