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壊れているから愛おしい

#マンガ感想文  

ジメジメと煩わしい日々が続く今日この頃、みなさまご機嫌いかがですか?心も体もウエットな私は、じっとりと湿った空気を部屋いっぱいに溜め込んで気まぐれに作った食事にカビを育成させております。可愛いですよ、カビ。

ジメジメした気候は嫌ですよね。本日は湿った気分を吹き飛ばすようなマンガを紹介します。そう、本日紹介するのは「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」です。

かの有名なSF作品を彷彿させる名前に興味を持った方がいらっしゃることでしょう。結論から申しますとSF作品ではなく日常を描いた短編集です。著者は若くして亡くなられた華倫変(かりんぺん)先生で、2001年〜2002年に書かれた短編を収録しています。「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」は短編集の名前であり、収録されている一編のタイトルでもあります。

「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」は100日後に自殺するとインターネット掲示板に自殺予告をした「光うさぎ」と名乗る少女の記録です。彼女は掲示板に自分の気持ちを吐露した動画を投稿し、「私のこと覚えておいて」と掲示板を見た誰かに発信する「イタい」女の子。自分を見てもらうために彼女は過激な行動をとり、時に自虐し、掲示板の向こうにいる誰かを罵倒し、自分の思いを吐く。掲示板の住人たちはそんな彼女をおもしろ可笑しくいじる。そして100日後ーーー

ほんの半年前に大ブレイクした「100日後に死ぬワニ」は、擬人化されたワニが日常に起きる小さな幸福や痛みを感じながら、作者と読者に予言された未来を減らしつつ普通の生活を送り、100日後に死にます。たくさんの人が日常の大切さを再確認させられたようなコメントを残していました。ですが、ワニくんの死から3ヶ月もすればケロリと忘れてしまいます。今では「日常の破壊者」を求める人たちのなんて多いことか。

光うさぎは自殺予告を「私と世界とのギリギリの接点だっただけ」と語ります。自分自身を振り返ってみると仕事以外に深い交友関係をもっていないので、どちらかと言えば私は光うさぎに近い人でしょう。しかし、私はもう少女ではありません。やっぱり、光うさぎではないのです。若年者の自殺を嘆く政治家が人気なようですが、ギリギリを生きる現代の光うさぎたちは日常を破壊して欲しいのでしょうか?今の私にはわかりません。

華倫変が描いた光うさぎは100日目、セーラー服を着て「マトモだった頃に戻れるかな?(笑)」と呟きます。かつて光うさぎだった私は、マトモがわからないままマトモな大人になりました。私がマトモな大人で居られるのは、大概の人がマトモが分からないマトモな大人だったことを受け入れたからでしょう。それはゆっくりと、侵食されるように受け入れた価値観です。今の光うさぎたちは、何を望んでいるのだろう?まだ、マトモを信じているのだろうか?

入手しにくい本ですが、心のささくれをプチっと抜いたような爽やかな痛みを感じられる短編集です。「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」はジメジメした梅雨空の、ちょっとした晴れ間を感じさせてくれる素敵な漫画です。きっとウエッティーなあなたの心を乾燥させてくれるでしょう。そう、漫画のかんそうぶんだけあって・・・すみません。

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