22-23バイエルン・ミュンヘン戦評/所感 vsドルトムント @Signal Iduna Park
◇いつも以上に負けられない者同士の【Der Klassiker】
年に2度顔を合わせる両チームの男たちの状況は例年とは違っていた。
10年間もの長きに渡り「絶対王者」として君臨しているバイエルン・ミュンヘンは、産みの苦しみとも言うべき苦戦ぶりで3位に甘んじている。
一方、ドルトムントは今年こそマイスターシャーレを目指して積極的な補強を講じてきたものの安定しない戦いぶりで4位に位置しながらホームに長年のライバルを迎えた。
◇バイエルン・ミュンヘンの現状
赤きドイツの強者は、元祖ラップトップ世代の寵児ユリアン=ナーゲルスマンを招聘して2年目のシーズン。
今季は“5レーン理論”で言うところの両端レーンをできる限り使わずに、
中央の3レーンを中心に縦に速くて強烈な攻撃スタイルを昨季以上に色濃く実践している。
課題は、引いて中央を強固に守るチームに対して中央に固執するあまりに窮屈な攻撃を強いられ、
徐々に攻撃が淡白となり停滞してなかなか得点を奪えないこと。
それ故に格下相手に「力強く・粘り強く・根気強い」闘いを挑まれ、泥臭く守りきられてしまい、文字通りドローゲームが続いていた。
改善策としては、遅攻の際はセンターラインに執着することなく臨機応変にサイドを利用しながら、あの手この手で少しでも相手の隙きを作り、少しでも多く決定機を作ること。
サイドを基点にアタックするバイエルン・ミュンヘン伝統の戦法と、
ナーゲルスマンが提唱する現代の戦い方を上手く混ぜ合わせて最適解を出すことこそ、
国内だけでなく欧州の舞台でも一際輝くためのテーゼとなる。
◇前半 ・ポイント ⇒ 所感
・ムココのインテンシティの高さ
⇒1トップを任されたムココ。バイエルンの頑丈なCB相手にも恐れずに戦っている印象。フィジカルの充実ぶりが伺え彼がボールを持てば何かが起こりそうな予感があった。
・ゴレツカとザービッツァの痺れるボランチコンビ
⇒このコンビはとても渋くて個人的にものすごく好きだ。どちらも華があるタイプではなく黙々と攻守に仕事を全うしていくタイプ。
いかにも惜しみない努力を積み重ね、それを着実に実力に結びつけてきたといったプレーぶりが尊敬の念を抱かせる。
・固さのある攻撃に「怖さ」という彩りを添えるムシアラ
⇒彼には類稀なる才能が与えられていることは周知の事実だ。前半は中央付近でCBからの楔の受け手を買って出て、見事なターンで相手を剥がしチャンスを作っていた。
・20分まで両者シュート0本
⇒基本陣形を大きく崩さずに攻撃し、なおかつ攻守の切り替えが迅速な両者はまさしく「がっぷり四つの構図」で、互いにバイタルまで至る前にチャンスを摘み取り合っていた。
これは両チーム生粋のストライカー不在も影響しているのか。
・33分バイエルン先制
⇒自陣でボールを奪ったデリフトからデイビスへ。
デイビスからサイドに流れたマネがカットインしながらバイタルエリアに侵入。
彼でしか為し得ない体動からのヒールパスが、天から愛された男ムシアラの元へ。
ブンデスで最もペナルティエリアでボールを持たせたくない若きドイツの至宝は、相手を引き付ながら絶妙なタイミングでマイナスにボールを供給。
待っていたのは、チャンスを嗅ぎ分ける仕事人ゴレツカ。
膝下の振りとミートのみに集中した彼らしい質実剛健な地を這うシュートが、ゴールに突き刺さった。まさに必殺と言うべき仕事だった。
・「バイエルンの強さとは何か」が分かる波状攻撃
⇒良いときのバイエルンは、容赦なく相手に襲いかかる。
怖さのある攻撃を連続して実行しセカンドボールをことごとく拾って、再度強力な攻撃を惜しみなく仕掛ける。
我慢ならない相手は、いつかその攻撃に屈して失点を許してしまう。
バイエルンが最も強さを発揮するのは、この時だと思う。
ドイツスーパーカップのライプツィヒ戦はまさしくこのような戦いぶりで相手を粉砕した。
得点してからバイエルンはこの流れを形成した。
・心地よいテンポでプレーするユリアン=ブラント
⇒彼のプレーには無駄がなくミスもない。俯瞰した筆者が「ここにこそ出してくれ」というところに迷いなく呼応してボールを出してくれる。
彼のプレーは何と心地が良いのか。
ドルトムントのチームメイトもそれを享受して、カウンターからチャンスを創出しかけていた。
◇後半 ・ポイント ⇒ 所感
・繊細かつ器用なファイターヨシュア=キミッヒ投入
⇒長短のパスを使い分けるキミッヒがザービッツァと交代で投入。
後半は彼が攻撃の指揮をとって数々のチャンスを演出していた。
・53分バイエルン追加点
⇒そのキミッヒが狙い澄ました縦パスから、バイエルンのXG増進男ムシアラがボールを受け神童ザネに渡す。
自慢の左足をムチのように思いっきりしならせて放たれたシュートは、GKマイアーの手を弾いてゴールに吸い込まれた。
・無双状態にトランスするウパメカノ
⇒前半から無骨ながら局面を打開しようと切れ味鋭い縦パスを量産していたウパメカノ。後半にはドスドスとオーバーラップしながらも確実性の高い上質な選択肢を選びゴールに迫った。あんなに強靭な肉体を持った男が、全速力で迫ってきたら間違いなくビビるに違いない。
・74分ドルトムント得点
⇒持ち上がった優等生ニコ=シュロッターベックから絶好調男ムココに供給。好調に裏打ちされナチュラルに良い体勢で前を向いて、ムココからここぞという所にスルーパス。サイドに流れたモデストは、ムココに折り返し。
体のキレがみなぎっているムココは、足元へのトラップを物ともせず、体中のバネを総動員して左足でシュート一閃。
ムココの作用させた重力が存分に乗っかったボールは、守護神ノイアーには届かないほど絶妙なコースに飛びゴール。
・嫌な予感がする(I have a bad feeling about this)
⇒1点返されて更にコマンの退場が重なる。とあるジェダイの騎士のような感覚に陥るバイエルン。途端にセーフティな選択肢に終始して気持ちの悪い空気が漂う。
・90分(+5分)ドルトムント同点弾
⇒利き足は頭。巻誠一郎もといアントニー=モデストに対して、ヴェストファーレンシュタディオンのBVBファン達はそのような思いを抱いたに違いない。
ムココの思いの籠もったゴールにより、最後の一秒まであきらめないメンタリティを得たドルトムントの集中砲火は、モデストの劇的なゴールを生んだ。
嫌な予感は、そのとおり悪い結果を生む現実になってしまった。
◇総括
バイエルンにとっては、なんとも後味の悪い引き分けだった。
最後のオリバー=カーンCEOのリアクションは、怒りと悔しさで溢れていた。
勝つべく試合に勝ちきることができない。
このような癖はつけたくないものだ。
悪夢はフラッシュバックする。
いかに勝ちきるか、それが課題となる。
強みとなる守備の連動からのボール奪取や波状攻撃は、随所に垣間見えていた。
過密日程でキーとなる選手交代を勝ちにつなげるいわゆる「勝ちパターン」がこれから生まれてくることを期待したい。
【Mia san Mia】