「ヴェニスの商人」も真っ青な消費者金融(2006)
「ヴェニスの商人」も真っ青な消費者金融
Saven Satow
Apr. 16, 2006
「貸したお金ね、元金かける利子の雪だるまで雪崩となりますから、締めてこんなところですかな」。
『ドリフ大爆笑』
アイフルに対し、金融庁は、4月14日、強引な取立てなど5つの違法行為を理由にほぼ全店営業停止の行政処分を下ししています。「合意は拘束する(pacta sunt servanda)」は、古代ローマ以来、金の貸し借りに対して適用されています。しかし、今日の日本ほどこれが拡大解釈されている社会は歴史上ないでしょう。
消費者金融の20%以上の年利は多くの社会問題を誘発しています。平成15年版の犯罪白書によると、不明を除いて、消費者金融から借金をしている者が強盗群の66.1%、そのうち多重債務者は消費者金融からの借入れがある者の57.9%を占めています。また、年間3万人を超える自殺者の中にも消費者金融からの借金を苦にした人が少なからずいると推測されます。
規制強化は借り手に制約を課すことになり経済によくない影響を与えるという反論もあります。けれども、消費者金融の高金利は途上国の農村にいる高利貸しのような情報コストの反映ではありません。借り手の情報を入手するのに費用がかかるので、それを利子に換算しているわけではないのです。社会が彼らの引き起こした諸問題の費用を支払っています。消費者金融の社会的費用を考えるならば、現状を野放しにできません。
この現状と照らし合わせるなら、ウィリアム・シェイクスピアの『ヴェニスの商人(The Merchant of Venice)』のシャイロックも慈悲深く見えるほどです。「悪魔でも聖書を引くことができる,身勝手な目的にな」。
この物語の舞台は中世のヴェニスです。バサーニオは富豪の娘の女相続人ポーシャと結婚するために、友人のアントーニオから金を借りようとします。けれども、このヴェニスの商人の財産は航海中の商船にあり、金が手元にないので、ユダヤ人の高利貸しシャイロックを訪れます。アントーニオは期限までに3000ダカットを返済できなければ、シャイロックに彼の肉1ポンドを与える条件で合意します。ところが、彼の商船は難破し、金を用意できなくなってしまうのです。
結婚指輪を交わしていたバサーニオとポーシャにそのことが伝わり、バサーニオが肩代わりをすると申し出ますが、シャイロックは受けとらず、契約通りアントーニオの肉を要求します。若い法学者に扮したポーシャがこの件を担当したものの、シャイロックは譲らないため、肉を切りとってもよいと判決を下します。
喜ぶシャイロックにポーシャは「肉は切りとってもよいが、契約書にない血や髪の毛など他のものは一切切りとってはならない」と付け加えるのです。肉を諦めたシャイロックは、アントーニオの命を奪おうとした罪により財産の半分を自分の娘ジェシカに譲らざるをえなくなり、その上、キリスト教へ改宗させられてしまうのです。
シャイロックは、『ヴェニスの商人』により、歴史上最低の悪徳金貸しとなったわけですが、これは明らかにユダヤ人差別です。ユダヤ教徒から利子をとっていないのに、キリスト教徒にはつけているという不満はあるでしょう。しかし、ユダヤ人はトーラーとタルムードの二つを守らなければなりません。前者は律法、すなわちモーゼ五書(「創世記」・「出エジプト記」・「レビ記」・「民数記」・「申命記」)を指します。後者は律法学者が決めたユダヤ教徒として従うべき日常生活や商取引などのルールです。
この二つを共通基盤としているため、ユダヤ人はお互いを信頼して金融や商業のネットワークを形成できているのです。そのタルムードで、ユダヤ教徒がとっていい利子は3%までと決まっています。トイチ(10日で1割)などもってのほかなのです。
シャイロックが今の消費者金融を見たらこう言うに違いありません。「いかなる悪徳も外面にはいくらか美徳の印を見せている。それをせぬような愚直な悪徳はかつてない」。
〈了〉
参照文献、
シェイクスピア、『ヴェニスの商人』、中野好夫訳、岩波文庫、1973年