見出し画像

なぜコロナ・ショックには現金なのか(2020)

なぜコロナ・ショックには現金なのか
Saven Satow
Apr. 04, 2020

「現金がゴールを決める」。
カール・ホプフナー

 新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、世界的に経済停滞が起きている。日本も例外ではない。その最大の原因は移動の制限である。最も基本となる拡大予防策の一つは、今のところ、社会的距離をとることだ。中央・地方政府による場合もあれば、市民の自発的選択の場合もあるが、人の自由な移動が世界的に抑制されていることは確かである。

 今回のショックでは総需要と総供給のいずれも縮小し、物価が一定のまま、総生産量の減少として均衡点が形成される。これは失業率の増加を意味する。しかし、需給の縮小は人の移動の制限という外的要因によってもたらされている。景気刺激策による需要の創出は移動制限のままでは効果がない。それどころか、移動を促すことになれば、感染拡大につながりかねない。

 また、同じ外的要因であっても、自然災害や大規模事故の場合とも今回は異なっている。災害や事故が生産や流通などの供給能力を奪い、需要に応えられず、ショックをもたらすことがある。だが、これは能力が復活すれば、事態は収束する。一方、今回は供給も需要も移動制限によって抑制されているだけで、いずれも喪失はしていない。需要が抑えられているのだから、供給能力を発揮することもできない。

 とるべき政策は均衡点を動かして総生産量を増やすことではない。外的要因が改善され、抑制された需要が解放されるまで、供給能力を維持することである。今回のショックに関する対策の主眼は需要側ではなく、供給側にある。企業がその時まで存続し、失業者が暮らせるようにすることが重要だ。そのために、彼らに必要なのはキャッシュである。活動を停止あるいは縮小したまま、言わば冬眠したまま、生き続けるには現金という栄養が不可欠だ。

 そこで税や保険料、公共料金のモラトリアムという政策が求められる。また、移動制限は感染拡大予防のためなのだから、そのインセンティブとして補償や給付など必要になる。世界各国がこうした政策を実施するのは当然である。

 個人への現金給付に条件を付けることは望ましくない。それ以前から失業していたとしても、移動制限がなければ、職を得られていたかもしれない。失業率を下げるわけにもいかないという前提を忘れてはいけない。また、条件は行政コストを増やし、タイムラグも生じやすくなる。しかも、手続きのために、社会的距離を取れない状況を招くとしたら、移動制限のそもそもの目的にも反してしまう。

 安倍晋三政権はずいぶんとのんびりしているが、すでに政策を実施している国も少なくない。新自由主義の隆盛により企業や個人の間の格差が拡大し、冬眠するための蓄えの余裕がない層が少なくないからだ。躊躇していては供給能力が損なわれる。外的要因が改善した際、抑えられていた需要に供給が答えられなければ、別のショックを招きかねない。もちろん、財政・金融政策によるその備えも、残念ながら、必要だろう。
〈了〉

いいなと思ったら応援しよう!