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投票率日本一をめざす(2014)

投票率日本一をめざす
Saven Satow
Nov. 22, 2014

「無党派層は寝ていてくれればいい」。
森喜朗

 竹下登は国政選挙に臨む際、「投票率日本一をめざす」を目標にしている。自分の選挙区やそれに属する市町村の投票率が日本一を達成するように取り組む。これを自身の当選より前に置いている。

 竹下がこの目標を掲げるのは「民主主義とは参加すること」と認知していたからである。彼は、そのため、回顧録『政治とは何か』によると、選挙演説でも「民主主義とは参加するということだと。参加するというのは、投票所に足を運ぶことだと」若い頃から徹して訴えている。

 ただ、当時、国政・地方選挙いずれでも投票率日本一は富山県利賀村で、竹下はここには勝てないと内心思っている。利賀村は、竹下の言及する2000年の富山県知事選において、98.4%の投票率を記録している。彼はせめて選挙区で日本一を達成すべく取り組んでいる。なお、利賀村は有権者数1,000人にも満たない小さい村落共同体であるが、毎回投票率は90%を超える。そのため、「投票率日本一の村」として知られている。

 投票率は一朝一夕で上昇するものではない。民主主義は参加することだという認識が定着するように、日々政治家が取り組まなければできない。そうした長年の積み重ねが民主主義へのコミットメントを高め、投票率を上げる。高い民主主義コミットメントがあってこそ、議員としての自分があると竹下登は考えている。

 投票所に足を運ぶには信頼できる人間関係が不可欠だ。すべての国民に参政権が認められている。しかし、竹下が議員の時代には、貧困や男尊女卑のために尋常小学校が最終学歴の戦前生まれも少なくない。読み書きもおぼつかない人さえいる。民主主義が何であり、各政党・候補者の主張がいかなるもので、投票はどのようにするのかを信頼できる人とのコミュニケーションから知る必要がある。そんな人がいなければ、そうした知識や情報が入手できないから、投票への意欲がわかない。

 投票率を向上させるには、普段から人間関係の信頼感を強くしておかなければならない。民主主義はそれに立脚している。低投票率で当選したことを喜ぶ政治家はこうした絆に基づく民主主義という制度に背いた存在であり、その職にふさわしくない。

 投票率は人間関係の信頼感と関連している。これは、現代的に言うと、投票率と社会関係資本が相関性を持っていることだ。近年、社会学を中心にそうした研究成果が公表されている。竹下はこの今日の先進的な学説を経験や直感を通じて認識している。

 投票率は政治学的認識からしばしば捉えられるが、それは必ずしも適切ではない。社会で孤立していたり、誰も信用できなかったりする人は投票しに行かないものだ。社会関係資本は互酬性に基づく人間関係であり、この大きさが投票を促す。極度の低投票率は社会における絆の弱まりや狭まりを示しているのであり、深刻な事態に陥っていると受けとめなければならない。

 公明党や共産党の支持者は、いかなる選挙であっても、投票率が高い。組織内のつながりが強く、それが投票を促進させるからだ。

 2014年末の総選挙をめぐりメディアやネット上で、野党勝利の鍵は共産党の動向にあるという主張が見られる。野党共闘に加わらず、共産党が独自路線を進めることは票の分散を招き、自公を有利にする。その利敵行為は国民を背くものだ。

 しかし、この見方は投票率の事情を無視している。2012年12月の総選挙の特徴は二つある。自公以外が断片的と言ってよいほど分裂していたことと戦後最低水準の投票率である。先の意見は乱立にのみ焦点を当てている。

 共産党の基礎票は日頃の活動によって築き上げられた人と人とのつながりである。それに対して、どうせ共産党は小選挙区で勝てないのだから、死に票になるくらいなら野党共闘に加わるべきだという意見は失礼だ。票は人のつながりであって、たんなる数ではない。

 投票は社会関係資本から促される。一票一票が人間関係の表象である。人と思われず、ただの数と見られて、有権者は投票などしない。その見方が選挙での敗北を招く。

 前回の低投票率であっても、共産党の支持者は一票を投じている。反自公の支持者なら、野党間でのパイの取り合いを懸念する前に、それを増やすことを訴えるべきだろう。共産党の基礎票を云々するより、野党に投票率を上げることを促させる方が建設的である。

 前の総選挙後、野党は信頼回復に努めたり、支持層を拡大したりすることには取り組んできただろう。しかし、投票率を向上させるための活動をしていたとは言い難い。それには社会関係資本の増加が必要だ。

 実は、社会関係資本は二種類ある。結合型と橋渡し型である。前者はつながりを強め、後者は広げる。

 自民党の議員は祭に足を運ぶ。祭は地域のつながりを強くする行事である。結合型の社会関係資本の増加によって自身への投票を促そうとしている。

 一方、野党には、橋渡し型の社会関係資本の増加が求められる。それは現代の民主主義の自由民主主義、すなわちリベラル・デモクラシーの原理である多様性の保障だからだ。その信頼感を社会に浸透させることが民主主義コミットメントを向上させる。それによって投票率は上昇する。

 野党第一党の民主党は長らく風まかせの政党と見なされている。風が吹けば勝ち、吹かねば負ける。それは社会関係資本の増大を十分にできないからである。中には、自民党議員の真似をする者もいるが、そんなことで信頼感が生まれるとしたら、真におめでたい。

 前回の総選挙並びに参院選といずれも極めて低い投票率が続いている。投票率は社会関係資本と相関性がある。信頼できる人間関係の状態を示し、民主主義コミットメントもそれに立脚している。政党は選挙を通じて投票率の上昇に取り組む必要がある。今回の総選挙の最大の関心事の一つは投票率である。それが結果を左右する。

 政治家なら、投票率日本一をめざせ!
〈了〉
参照文献
竹下登、『政治とは何か』、講談社、2001年

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