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「素晴らしき休日」の後には...(2006)

「素晴らしき休日」の後には…
Saven Satow
May, 11, 2006

「人間万事塞翁が馬」。

 「素晴らしき休日」の後には、しばしば、意外な事態が待っているものです。商社に勤めるジョニー・ケイスの場合もそうです。休日にレーク・プラシッドで知り合ったジュリア・シートンの家を後日訪ねた彼はその豪邸に驚かされます。彼女はアメリカ金融界の大立者エドワード・シートンの娘なのです。

 フィリップ・バリー(Philip Barry)による喜劇『素晴らしき休日(Holiday)』は、このように思いもよらぬ展開をしていきます。

 彼女には姉のリンダと弟のネッドがいます。ジュリアと違い、社交界にも参加しないリンダをエドワードはあまり愛していません。リンダも家庭的な温かみのないこの館を「博物館」と呼び、亡き母が晩年をすごし、やさしい雰囲気の漂う遊戯室へ閉じこもっています。弟のネッドだけがリンダを理解してくれたものの、シートン家の跡継ぎという重圧に彼は押し潰され、酒に溺れています。

 ジョニーとジュリアの婚約発表が館で盛大に行われますが、リンダがいません。彼が遊戯室へ呼びに行くと、そこにはリンダとネッド、それにジョニーの親友の大学教授のニックとスーザンのボター夫婦も一緒です。スーザンはリンダの学校時代の先生なのです。みんなはパーティを忘れて、すっかり盛り上がってしまいます。

 そこへ現われたエドワードに、ジョニーは取り引きが成功し、大金を手にできたので、仕事を辞め、人生を考えてみたいと告げます。人生において、金儲けは一義的な目的ではないと言う彼にジュリアとエドワードは当惑し、リンダは共感します。

 シートン家流の生活を2、3年してみると決めたジョニーに、ボター夫妻が欧州留学へ赴くこととになり、同行を勧めます。エドワードの権威主義的振る舞いに嫌気がさし始めた彼は、ジュリアに一人の女性として今すぐ結婚し、自分と共に欧州へ来てくれないかと申し出ます。ところが、ジュリアは一人で行けばいいと冷ややかに答えるのです。リンダはジュリアがジョニーを本気で愛しているわけではなかったと知ります。出帆10分前、ジョニーはボターの船室へ飛び込み、その直後、リンダも駆けつけるのです。 

 これがブロードウェイで初演されたのは1928年です。ウォール街の活況に伴い、拝金主義が蔓延し、禁酒法に代表される非寛容なピューリタニズムが昼の社会を圧迫すると同時に夜を支配する暗黒街が享楽的なお楽しみを提供していた時代です。そんなアメリカから欧州へ渡り、自分自身を探す「パリのアメリカ人」も現われます。『素晴らしき休日』はこうした時代を諷刺し、大ヒットしています。

 なお、『素晴らしき休日』は、1930年と38年に映画化されています。10年も経たないうちにリメークされているのですから、いかにこの作品に人気があったかわかるでしょう。

 小泉純一郎首相を始め、与党や閣僚の多くが連休中に外遊へ出かけ、いろいろな思惑を抱きながら、さまざまな発言をしています。これは今に始まったことではなく、以前からの悪習です。この間の政治家の機会費用はどうなのかと考えずにいられません。ジョニーは、人生の目的を「素晴らしき休日」ではなく、思いもがけず、その後に見つけています。彼らが政治の目的をいかに考えているのかは「素晴らしき休日」の後に、意外かどうかはさておき、見えてくるのでしょう。
〈了〉
参照文献
大平和登、『ブロードウェイの魅力』、丸善ライブラリー、1994

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