Q2.本の『選び方』ってありますか?(医学・看護書編)
先輩、もうダメです…自分はバカなんです……
えっ?急にどうした、そんなに落ち込んで。
だって、勉強しようと思って本を買ったのに難しくて全然わからないんですよ!もういいんです、自分がバカだったんです。
随分と凹んでしまって…ところで何を勉強しようとして、何の本を買ったのか教えてよ。何をしようとしたの?
よくぞ聞いてくれました!心電図を勉強しようと思って、【心電図の読み方パーフェクトマニュアル】を買ったんですよ!でも、わかんなくて読んでも…すっごい高かったのに…全然わかんないんです、全然パーフェクトじゃないです。
ブックガイド
【心電図の読み方パーフェクトマニュアル〜理論と波形パターンで徹底トレーニング!〜】羊土社
それいい本なんだけどな。ちなみに心電図の勉強ってしたことある?今までになんか心電図の本を買った?
いえ、これが初めてでしたけど。
なるほど…でも心電図に関連する本なら他にもたくさん本があったでしょ?
どうせならいっぺんに全部マスターしようと思って!分厚くて「パーフェクト」って書いてあるこれにしたんすよおおお!
うんうん、その熱い気持ちはわかった。とりあえず結果から伝えると、この本の対象に君はいないんだ。
え、どういうことですか?!私みたいなポンコツには読ませないってことですか!!
そういうことじゃなくてさ。専門書には専門書なりの選び方があるんだよ。その本はいい本だから必ず取っておこう。今はともかくレベルが上がった時に役に立つ。では今日は、僕なりの医学・看護の専門書の選び方をお話ししよう。
あ、これから心電図を学ぼうって方で何から読めばいいのか…と悩んでるんだったら、【かげさんのイラストで学ぶ心電図と不整脈めも】をオススメするよ。
ブックガイド
【STEP1.前提知識を把握し、学ぶ目的を明らかにしておく】
本を買った時に「なんだ、全部知ってることばっかりだったな」とがっかりしたことはないでしょうか?(それはそれですごいことです)
自分にベストマッチした本を選ぶためには、まず自分がその内容についてどれだけの知識があるのかを知っていることが大事です。未知の領域なら、入門編でしょうし、既知の領域なら応用に当たる本が適切かもしれません。逆に、すでに知っているけどざっと復習したいということなら学び直し系の本がいいかもしれません。
それがわかっていると、「全く知らない領域だから、薄くてイラストが多めなやつがいいかな」「この部分に特化して知りたいからここに特化した本」というように、本の選び方が変わってきます。
自分に足りないところを補うのか?
元々の知識をさらに特化させるのか?
既知の知識の論拠をもっと集めるのか?
自分が知る以外の目的で本を読むのか?
などの目的によって、検索対象を変えると目的に沿った本を探しやすくなるはずです。
そしてどういった目的で本を使うのかが重要です。
心電図の例で言えば、致死性不整脈だけでも見分けたいのか、基本的な読み方を知りたいのか、もっと専門的な波形を見極めたいのか、不整脈に応じた看護を知りたいのかというところです。
【STEP2.その本のターゲットを知る】
医学書や看護書に限らず、本には想定されているターゲットがあります。そこから外れている人にとっては難解すぎたり、簡単すぎたりして使いこなすことが難しくなります。なので、STEP1を行うことによって、自分のレベルや目的が明確になるので選ぼうとしている本来のターゲットにしている層に自分がいるかいないかが明らかとなります。
では本のターゲットがどこに書いてあるかというと、多くの場合その本の「序文」「前書き」「第一章」「本の帯」など、本の前の方に記載されています。今回、例に出した心電図の読み方パーフェクトマニュアルの序文には下記の言葉があります。
出版社である羊土社のホームページに行くと。
という記載があります。つまりこの本のメインターゲットは、医師もしくはそれに準じた医学知識を備えた方ということがわかります。つまり、「初めて心電図を学びたいと思った」看護師にとってはアドバンスな本といえます。
そもそも、いわゆる「難しい本」はなんで難しいのでしょうか?
それは「この本を読む人にとって、ここは理解しているはず。これはわかっていて読むはず」という本を読む前提となる知識のハードルが高いことが挙げられます。それは例えば足し算引き算を覚えていないのに、いきなり連立方程式に取り掛かるようなものです。読みこなすためのステップアップが必要なのです。
膨大な本がある中で、最も自分のレベルに見合った書籍を探すには、本のターゲットを知ることが近道です。
【STEP3.本の新しさを知る】
言うまでもないかもしれませんが、実践することを目的とした参考書を買うならば基本的には新しいものが良いです。専門書、特に医学・看護書にとって「新しさ」のもつ意味合いは非常に大きいものです。
極論として「この本で調べたら、この方法がいいって書いてありました!」と言って50年前の看護の本の内容を実践するスタッフが出てきたらきっと「えええーーー!」となると思います。(ある意味、本としての価値はあるかもしれません)
確認するところは奥付と言われる部分の発行日と版です。
①発行日
本の販売ページ(出版社のHPや通販のページ)で何年/何月/何日発行というところで確認できます。同じテーマやジャンルなら、新しい知識を取り入れた方が良いです。
②版
これは本の奥付に記載されていて、第◯版というところで確認できます。
人気があるロングセラーの本の場合、訂正箇所があったり、新たな知見がわかたらアップデートがなされていきます。そして改訂が加わると初版→第二版→第三版…とどんどんバージョンアップしていきます。
初版本狙いのコレクターでもない限りは、医学・看護書など専門性が高いものは新しいものの方が良いです。
③刷
では、それらと同じように書いてある「◯刷」は関係ないのか?という話になりますが、これは正直あまり関係ありません。どの程度本が作られたのかという指標にはなるので、これが多ければ「人気があるんだな」というのはわかります。
極端な事例でいくと絵本ですね。絵本はあまり改訂がないので、アップデートされることはなく版は少ないまま。ですが多くの世代に読み継がれるので、刷は多くなってロングセラーの絵本だと何百刷というところまで来ているものも珍しくありません。
ほとんどの書店は商品のサイクルが早く、入れ替わっていくので心配しなくてもほとんどの本は新しいことが多いです。逆に品揃え豊富な超大型書店の場合、2021年でも『2015年最新版!』みたいに数年前の本が置いてあることがあります。何年たってもそれが最新版ということもありますが、買う前にそれより新しいものが出版されていないかチェックしてみましょう。
【STEP4.本の引用文献・参考文献を知る】
STEP1で自分の立ち位置を知りました。
STEP2で本のターゲットを知りました。
STEP3で本の新しさを知りました。
ここまでくると、自分にとってのハズレを引く確率はかなり低くなります。どの本を買ってもそれなりに学びに貢献することでしょう。
しかし、医学・看護の参考書にとって大事なことがあります。
それは学術的な正しさ、科学的な正しさです。
科学的に証明された裏付け(evidence based)があって初めて知識を得るための専門書として機能します。逆にこれがなければ再現性がなかったり、逆にその知識で不利益を自他に被ることさえあり得ます。
特定の本を批判する訳ではありませんが、「自分がこうしたら病気が消えた!」「この生活習慣をしていれば安心!」と言ったexperience basedな本を見かけることは珍しくありません。しかしこれはサンプル数が1(実体験程度)とか数十程度の話であることがほとんどです。
しかし世に出て学術的に認められるには、条件を揃えたり例外をなくしたり、そして数千や数万のサンプルで再現性があって初めて科学的な裏付けが得られるものです。
そこで書籍には、基本的に本の章立ての最後の方に『引用文献・参考文献』が記載されています。流石に1つ1つの文献の妥当性までは精査することは困難を極めますが、科学的背景がしっかりとした文献を数多く引っ張ってきているのであればその本は科学的に信頼性が高いものと言えます。
科学としての書籍において、引用文献・参考文献が多いことは手抜きでもなんでもありません。むしろ、著者が先人の知恵に敬意を表し、科学的に真摯に向き合った産物です。evidence basedの医療・看護を行うためにもこうしたところに目を向けるのは重要と考えます。
ここまでくれば、本当に自分にあった良い参考書に巡り会えると思います。
ここから先は、「そういう考えもあるのか」程度にコラムとして読んでください。
【書籍選びにまつわるあれこれ】
・通販サイトのレビュー(特に星の数)は当てにしない
→レビューを見るとわかりますが、本(本に限らずですが)の内容以外のことで評価を行なっていることは少なくありません。例えば「発売前だけど期待を込めて5をつけます」とか「配達が遅かったので1」などで、これで評価されてしまうのは不当と言えます。
また「買ったけど難しすぎた(だから星1評価)」「知ってることしか載っていなかった(なので星1評価)」というのは購入者がそもそも本選びを間違ってしまっていると言えます。
もちろん全く信用しない訳ではありませんが、『この評価は本当にこの本を正当に評価しているのか?自分にとってはいいのか、悪いのか?』というのを考えてみると良いと思います。
・『ジャケ買い』『著者買い』してみる
→両方とも、あえてSTEPを全部すっ飛ばす方法です。STEPで考えると、自分にとってマッチしたものに出会いやすくなる一方で「望外の出会い」は少なくなってしまいます。思ってもいなかったところに、自分に役立つことが書いてあったということはあると思います。本のジャケット、つまり装丁をみる訳ですがこの場合中身の吟味は置いといて、自分が惹かれるかどうかです。「今までなんで知らなかったんだ!すごくいい!」となるかもしれません。ただ、もちろん大外れということもあるかもしれませんけどね。ジャケ買いはリスクは高めです。
その場合は、『著者買い』がオススメです。すでに買った本がすごく自分にとってよかった、著者の来歴や提言に興味があると言った場合にその著者が書いている本を調べて手を出していく方法になります。これは比較的ハズレは少ないはずです。そして元々読んでいた領域から少し軸をずらした学びを得られたり、より深度を増したレベルの高い学びに繋がります。この場合のデメリットは、著者を信奉しすぎることです。「この著者のいうことなら正しい」とまでなってしまうと、著者が足を踏み外した時に一緒に踏み外すことになります。ある程度の冷静さは必要です。
・誰かに紹介してもらう
→自分が信頼している方、すでにその領域で学んでいる方などに「◯◯について知りたいんですけど、何かオススメはありますか?」と質問してみるものです。
これは結構当たりの確率は高くなります。その領域に詳しい方なら、その領域の入門レベルから実践レベル、そして応用レベルまでレベル帯別にいい本を知っていることは多いです。またちょっと話を掘り下げて少し軸をずらした本や、他に興味のありそうな分野の本まで知ることができるかもしれません。
僕もたまにこうした相談を受けることがあります。その時に知りたいなと思うのは、「どのくらい知っているのか」「どういう目的で学ぼうとしているのか」「他にどんな学習手段があるか」「今まではどうだったのか」というのは知りたいなと思っています。
・古くなった本の活用方法
→先述したように、専門的な本というのは更新が早くてどんどん本は古くなっていってしまいます。かといって全ての本をアップデートするたびに買い直すというのは経済的にも空間的にも難しいのが実情です。
古くなった本の価値は、アップデートがされたあとに出てきます。更新が続いていくと、かつてはどうだったのかということは記載されなくなっていきます。そのため、昔はどう言った理由でやっていたのかを当たれる資料になります。また、全てのスタッフが同じタイミングでアップデートができる訳でもありません。昔の知識で対応しているスタッフに対して「今は違うのになんであぁしているんだろう?」という疑問があったときに、今と昔の違いを把握するにも役立つことはあります。
またフリマアプリに出品してお金に変えて、それで新しい本を手に入れるという方法もあります(が、基本的に僕は本を手放さない主義なので実践していません)
・簡単すぎた本の活用方法
買って読んでから「簡単すぎたな〜」「全部知ってたな」と思うこともあるでしょう。もし隅々まで読んでも全部わかるのであったら完全にマスターしたと考えられると思います。そうなるとこの本は用済みなのでしょうか?そんなことはありません。
簡単になったと感じたのであれば、それは初学者に伝えるときに有用です。簡単だと感じる本は、読み手にとってわかりやすく、必要な情報を伝えるように工夫がなされています。それは誰かに教えるときに何をどう伝えるとわかりやすいのかということが詰まったヒントといってもいいと思います。なので、簡単になったからといって学ぶ内容がなくなった訳ではありません。どういう仕掛けで「わかりやすい」「簡単だ」と感じるのかを知る良い機会になりますので、ぜひ別の視点で見てみてください。
・難しすぎた本の活用方法
→簡単すぎる本があるように、「全然わからん!」「内容が高度すぎる!」という本ももちろんあります。今回、例に出した心電図の本はまさにそれです。第一章から全くわからないことさえあります。本自体が難解を極めていることもありますが、これは自分の前提となる知識が足りていないことが大方の理由となるでしょう。なので手放すのは早計です。
難しいと感じる本は一つの自分のレベルを示す指標になります。そこからレベルを下げていって、どこまで戻れば不足を補えるのかをしれば自分が強化すべきポイントやカバーする領域が見えてきます。少し戻って、戻った先の本が難しいのであればまた少し戻ってを繰り返してレベル帯にあった本を読むのが良いです。そうして学びを深めた後に読んでみましょう。もしかしたら以前より読み進められるようになっているかもしれません。活用できるポイントがわかるようになっているかもしれません。ぜひ、諦めずに手元に残しておいて欲しいと思います。
さて、自分流の本の探し方やコラムを書いてきました。
そろそろまとめていきましょう。
僕は、本というものは知識の街灯のようなものだと思っています。
その領域に迷い込んだ人が、どうやって歩いていけばいいかを示してくれる明かりです。たくさんの明かりがありますが、その明かりがどの程度照らしているのか、どこまで見えるようになっているのかを知らずに歩く人は多いように思います。なのでその明かりが何を照らし、どこまで歩かせてくれるのか、次の目指す明かりはどこにあるのかを知ってから、街灯を点々と繋いでいくと迷子にならずに済むはずです。ぜひ自分にあった街灯となる本を見つけて、楽しく歩いていきましょう。
まとめます。
自分専用の図書館や、無限に収納できる本棚があったらなぁ、と願ってやみません。
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