遊廓さんぽ①京都編
京都のとある遊廓旅館に宿泊した。
元遊廓だった建物を改装した旅館で、当時の趣そのままだ。
まさに五社英雄映画の世界…!
この日は国立民族学博物館「驚異と怪異」を見に行った帰りで時刻は19時過ぎ。宿の近くには街頭も人通りもほとんどなく、暗く静寂な雰囲気に包まれていた。
内心怯えながら戸をガラガラと開けると、受付で伊藤潤二風味の幸薄い系お兄さんが出迎えてくれる。もうこの時点で怖い。お兄さん何でそんなに生気が感じられないの(失礼)。
2階に上がって案内された部屋は狭くて縦長の1人部屋。風呂は1階、トイレは1階と2階にそれぞれあって共用だった。私は霊感など微塵もないが、建物の中に入った瞬間から少し嫌な感じがして、脳内で稲川淳二の「やだな~、怖いな~」という声がこだましていた。
何が嫌かというと、まず空気が重い。これは宿に入ったときからで、暗くて身体が重たくなるような雰囲気をずっと感じていた。
そしてもっと嫌だったのが間取りと家具の配置。
布団を敷いて仰向けになると、大きな鏡と大きな押し入れが絶対に視界に入ってくる…。
あの鏡に何か写ったら…あの“人が5人くらい入れそうな”押し入れから何か飛び出して来たら…そんな不吉な妄想をしながら布団にくるまっていると、窓の外からかすかに鳴き声が聞こえてきた。
―ピギャァ。
甲高くて聞いたこともない声。猫のような、鳥のような、あるいは人間の子供のような。
部屋は2階だし、きっと鳥でも鳴いたに違いない…。カーテンを開けて確かめるのも怖くて、しばらく休んでいると今度ははっきりと鳴き声が聞こえてきた。
―ビギャァ!ピギャァ!
しかも明らかにさっきより距離が近づいている!怖さに耐えきれず、まるで遺言でも送るかのように友人や家族に「やばい。変な声が聞こえる。部屋が怖い。」と連絡しまくる。
部屋でじっとしているのも怖いので宿の中を探検することにした。2階には部屋が並んでいて、私以外にも何人か宿泊している様子。部屋を出てふと左側を見ると、明らかに部屋ではない謎の扉を発見。物置だろうか…? 絶対に開けたくはない。
廊下の向こう側には珍しい円形の窓。なんとなく遊廓建築は階段も特徴的な気がしていて、1階では張り見世が行われていたのかなとか、遊女は2階の部屋からどんな気持ちで窓の外の世界を眺めていたのかなとか想像が膨らむ。
共用風呂はアツアツの湯舟に浸かることもできて至れり尽くせりだった。ちなみにこの宿はとても安く、元遊廓という話題性もあってか海外からの観光客が多いそう。
部屋に戻ってからはなかなか寝付けず、夜中の2時過ぎに目が冴えて共用トイレに行くと(今考えるとなぜ丑三つ時に行動したのか。)、2つある個室のうちの1つが埋まっていた。恐る恐る隣の個室に入ると、個室同士を隔てる壁の上下に隙間が空いていて、今にも手でも出てきそうな気配だ。そしてなぜか隣からは物音ひとつせず、空調の音だけがタイル張りの室内に響いている…。(きっと向こうも怖くて音を立てられなかったのだろうと思うことにする……。)
史上最高速度でトイレを済ませて流しで手を洗っている間、洗面所の大きな鏡に自分以外の何かが写っていたらどうしよう…と気が気でなかった。
その後ダッシュで部屋に戻って震えながら一夜を過ごした。隣部屋にいる夫婦の話し声が聞こえてくるのが逆にありがたかった。。
まともに眠れなかったが朝は来る。
昨夜の出来事は何だったのか…。遊廓に閉じ込められた何かしらの気…のようなものが集まってくる場所だったのかもしれない。
注
恐怖体験のようになってしまいましたが、めちゃ良いお宿でした。。!