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『月夜の子うさぎ』
いわむらかずお 作
クレヨンハウス
いわむらかずおさんの絵本です。
3匹のウサギがウサギ小屋にいます。もらわれて来たのです。3匹は、うっちゃん、さっちゃん、ぎっちゃん。さっちゃんは、ウサギ思いのアーボさんが取ってくれた草もあんまり食べずに「お母さんに会いたいな」と思っています。
そこへ、うっちゃんが泥だらけで穴から出て来ました。穴を掘っていたら、外へ出たというのです。
「外に出たらお母さんに会えるかもしれない」
さっちゃんは真っ先に穴に入りました。うっちゃんも、そしてちょっとためらっていたぎっちゃんも穴を通って、3匹の子うさぎは外に出てしまいました。
外では、犬に会ったり、チャボに会ったり。
大根畑では知らないお母さんうさぎに守ってもらったりの冒険をします。
最後は番犬?が来て、子うさぎたちは小屋へ逃げ帰ります。
さっちゃんだけは帰って来ませんでした。
普通なら、お母さんに会えるか、お母さんに会えなくても3匹揃って小屋に戻ってめでたし、めでたし。というところですが、さっちゃんは帰って来ません。ぎっちゃんが、「お母さんのところへ行ったのかな。それともまだどこかに隠れているのかな」と思いながらさっちゃんの帰りを待っているままで、物語が終わります。
うーん。ちょっとすっきりしない終わりですが、実は、これはいわむらさんのお家で起こった実話なのですね。もちろん3匹の子うさぎが出ていくところと夜の冒険はは創作ですが。いわむらさんがもらった子うさぎが3匹、家に来た1週間後の夜に小屋の外に出て行ってしまい、1匹だけ帰ってこなかったそうです。
改めてこの絵本を見ると、作者いわむらさんは帰ってこなかった(帰ってこれなかった?)子うさぎのさっちゃんに1番心を置いているように思えます。語り手のぎっちゃんの視点から、さっちゃんがすごくお母さんのところへ行きたがっていたことが描かれています。語り手はぎっちゃんだけれど、さっちゃんの気持ちが中心に描かれているからです。そして、ぎっちゃんは最後には「お母さんのところへ行ったのかな」とさっちやんのことを待っています。これはうさぎのことを心配していたいわむらさん自身の気持ちではないでしょうか。さっちゃんだけ帰って来ないんだけど、「きっとお母さんのところへ行ったのかも」
そう思って心を慰めていたのかもしれません。
この絵本の語り手のぎっちゃんが、いわむらさんのような気がします。いわむらさんは、きっとこの絵本のぎっちゃんのように、さっちゃんの帰りを待っていたんじゃないかな。
さて、いわむら家のその後には、ステキな神様からのプレゼントもありました。帰ってきた2匹のウサギの間に6匹の子どもが生まれたのです。その中に、さっちゃんが生まれ変わっていたら!それもステキだなと、思ったりしました。
遅ればせながら、いわむらかずおさんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
皆さま、良い一日をお過ごしください。