作るのが好きなんじゃなくて、食べてもらうことが好き
大学進学のために18歳で親元を離れて、もう24年。
母が作るごはんを食べた年月よりも、自分でごはんを作って食べている年月の方がずっと長くなってしまった。
料理が好きかもしれない、と自覚したのは10年ほど前から。
でもここ数年は、作るという行為そのものが好きなのではなく、誰かに食べてもらって「おいしい!」と言ってもらうことが好きなのかも、と思っている。
「今日のごはんは何ですかー?」
と、最近スマホデビューした娘から、夕方LINEが届く。
「腹減ったー」と言いながら帰宅した夫が、テーブルに並んだおかずを見ながら晩酌のお酒を選ぶ。
「このフォーがおいしそう。これ作れる?」と、プロの料理人が作ったであろう、湯気が立ち上りそうな表紙の写真を指差して夫が言う。
2人とも少食だけど、私のごはんを楽しんでくれている。
何となく信頼されているような気持ちになる。
失敗しても、ショボいおかずでも、私が用意したものを食べてくれる、確実性みたいなものが積み重なって、家族を作っている気がする。
今日のごはんは何ですかー?
と聞くことは、この先恐らくないけれど。
自分の食べたいものをメニューに入れる特権と、「おいしい!」と喜んでもらえる満足感もなかなか捨てがたい。
そう言えば、結婚と同時に夫が転職する時、最優先事項にしたのは『一緒に晩ごはんを食べられる時間に帰宅できること』だった。
交代勤務や通勤時間が長い職場ではなく、お給料がちょっと少なくてもいいから、一緒に晩ごはんを食べたい、と思っていた。
反抗期に入った娘と、結婚12年目を迎えてポテッとした夫の脇腹を見ながら、「この人たち、私のごはんでできてるんだなぁ…」としみじみ耽る梅雨の夜。