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美しい身体――ストリップ鑑賞メモ

 ストリップを観に行った。

 ちゃっかりはまり、2回目となる前回の来訪ではポラまで撮った。推しもできた。この先劇場が近くにない場所に引っ越すようなことがない限り通うだろう。せっかくなのでこの機会に、感想をまとめてみたい。

※システムはどんなだとかどんな踊り子さんがいるかとか、そういう話はしません。ほかの人の記事を読んだほうがわかりやすいでしょう。ここでは単純な感想を書きなぐろうと思います。あと、私の推しが誰かも秘密です。

 美しい。ひたすらに美しい。

 目をかっぴらいて、涙が出そうな気持ちで鑑賞した。

 人の数だけバリエーションがある顔だち、筋肉のつき方、骨格、皮膚の質感、あざや傷跡など、身体のすべてが芸術に昇華されていた。というよりもそもそも人間の身体は美しいのだということを思い出した。いろいろな顔や体つきの踊り子さんがステージに上がるが、それら全てが異なる美しさを放ち、美の洪水で心がいっぱいになって苦しいほどだった。

 美術館に行った時と同じような気持ちになった。

 たぶんインスタントなものだろうけど、愛のようなものさえも感じた。

 命がぎらぎらに輝いていた。私は女性にも性的な興奮を覚えるセクシャリティだが、明確に性的な気分にはならなかった。生きていることを全力で肯定されたような気持ちになった。自分の醜さ、矮小さから目を逸らすことを許され、ひたすらに美しさを享受して悦びに包まれる、そういう場であった。

 私は自分の身体が嫌いだった。美しくない、醜いと判断され慣れた不本意な形をした身体を背負わされている感覚でずっと暮らしてきた。自分の身体を隠し、あまつさえ傷つけ、他と交換することを望んだ。しかしこの身体だから、ではなくて自分の持ち物だから気に入らないのであって、きっと誰かと入れ替われたとて同じことになるだろう。そういう強い自己否定から抜け出せない。

 踊り子さんたちはみな誇りをもってそれぞれの身体でそれぞれの踊りを披露しているように見えた。全身を使って、身体を賛美しているように感じた。こういうことが自分にもできたなら、と強く思った。同じように踊ることは私にはできないが、自分の身体を傷や痣まで誇り、心から礼讃できる日がいつか来たらいいと思った。

 目が合う(合った気がする)たびに踊り子さんたちは優しく微笑んでくれて(微笑んでくれた気がする)、キュンとすると同時にじーんとした。いろいろな音楽が使われ、普段聴かないものと出会えるのも魅力だと思った。美しい踊りを間近で見ることができて、踊り子さんと話したり写真を撮ったりすることもできて、なんて贅沢な時間だろう……深い感動と美的陶酔に包まれて、劇場をあとにした。


 さて、劇場では他人のプライベートパーツをたくさん見るわけだが、本来軽々しく見せてはならない尊厳がかかわるものを、赤の他人がいきなり見ることについて考えさせられた。その経験の非日常感に好ましい感情を覚えるということもあるだろうし、あなただけの大事な宝物を見せてくださってありがとうございます、という気持ちにもなった。ただし本来は個人間の信頼関係と同意があったうえで密かに見るものなので、それを金銭の授受によって代替することにはちょっともやもやしてしまった。いいの!?というドキドキと、本来はダメでしょう…という感情と、複雑である。

 もうひとつ感じたのが、美しいなあと思うことと、性的な気分になることとの境目は必ずしもはっきりしていない、ということである。私は鑑賞前、ストリップなんて風俗に行くのとそう変わらない、下品な男どもが妖精に群がっている空間だと思っているふしがあり、そういう輩と違って性を抜きにして楽しめる私、すごい!なんて自惚れていたが、よくよく考えると私の鑑賞後のドキドキ(なぜかしばらくの間、鼓動が早かった……)も性的な興奮といえるのかもしれない。一辺倒に性的な消費だけを憎む前に、美と性についてもっとよく考えてみたくなった。性的な消費はもちろんある種の暴力で、それに傷む人も多いだろうが、芸術として鑑賞することが暴力的でないとだれが言えるだろうか。

 Twitter(現X)を覗くと、スト友という一緒に劇場を巡ったり感想を言い合ったりする友達がいる人をちらほら見かける。羨ましく感じることもなくはないが、私は今のところひとりきりで劇場に行って、ひとりきりで観て、誰とも話さずひとりきりで帰ってきている。もし劇場で友人ができたとしても、泣きそうになりながら食い入るように盆を見つめる私の姿は、あまり見られたくない。全員と他人だからこそ全力で観ることができるので、これからもひとりで楽しみたい。

 ひとりで楽しみたいなんて言っておきながらこうやって書いてしまうのは、よかったことをみんなとシェアしたい性格が出ていますね。また何かほかによかったことがあったら書きます。

 

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