募金箱だと思っていたピンクのポーチは実は彼女の財布だった話
寒い日に思い出す。
数年前、川崎駅を歩いていたら、フィリピン女性に声を掛けられた。
彼女は、飢餓で苦しんでいるフィリピンの子どもたちの写真を見せてこう言った
「フィリピンの貧しい子どもたちのためにどうか募金をしてください。」
そう言って開かれるポーチ。
私は迷わず募金をした。
決して上手とは言えない日本語に、母国のために頑張ろうとする一生懸命さに心を打たれた。
両手に抱えたピンクのポーチからはギラギラと銀色のコインたちが顔を覗かせていた。
翌日、同じフィリピン女性に声を掛けられた。
彼女は写真を見せながら言った。
「フィリピンの貧しい子どもたちのために…」
そう言ってポーチを大きく開く。
私は慣れた手付きで募金をした。
それから私は言った、「今日から毎日募金をします。私を見つけたらいつでも声をかけてください」
彼女はお礼を言って去った。
3日目、用事が長引き、いつもより遅く川崎駅についた。思えば空腹、「今日は寄り道して帰ろう」
私は川崎駅にあるうどんチェーン店に入った。
店内を見渡すとレジ前に女性が一人。よく見るとあのフィリピン女性だった。
238円です。定員の声とともに、彼女はピンクのポーチから小銭を取り出す。
その瞬間気付いてしまった。
私が昨日、募金箱だと思って小銭を入れたポーチは、実は彼女の財布で、私は彼女の財布に直接小銭を入れていたのだ。
うどんを手に入れ満足そうに微笑む彼女。
不思議と悔しさはなかった。彼女には彼女なりの理由があるんだろう。日本に来たけど、なかなか仕事が見つからず、生きるため一生懸命考え抜いた策だったんだろう。安いうどんを食べて満足そうにしている彼女の横顔が見れたから私はヨシとしよう。それを不快だと思う人が彼女を叱ってやれば良い。
店内で一瞬目があった。彼女は軽くお辞儀をして「ごちそうさま」の一言とともに店内を後にした。
彼女を見たのはその日が最後だった。
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