バンドやろうぜ!#15杯目

高校の門を勢いよく自転車で飛び出した。僕は少し先を行く樋口先輩の背中を立ち漕ぎで追いかけた。

「バンドやろうぜ!」

前方から風の音に混ざってそう聞こえた。

「大丈夫だよ。ケイトが歌えばいいから」

数日後、手書きの地図を見ながら、街の中心に流れる小川沿いのレンタルスタジオを探した。まだ明かりの灯らない薄汚れたピンク色にブルーの文字の看板を見つけた。入口に僕と同じ校章の学ランにギターを背負ったどこかで見た先輩が立っている。

「お! ケイトだろ? ひぐっちゃんから聞いてるよ! 歌やるんでしょ!」

僕がボーカルをやることは決まっているような口ぶりだ。まだ名前も知らない先輩の目を見て、ひぐっちゃんが僕の歌をひぐっちゃんは一度も聞いていないとは言えなくなった。

中学生のころ、僕は音楽が大の苦手だった。授業が終わると担当の先生によく職員室に呼び出された。先生の席の横に正座すると、楽譜の読めない僕に先生は言った。

「ケイト、この音楽のテスト、なんとかならんかったのか。このままでは評価が2だぞ。進学のことを考えるとまずいだろ。がんばって歌っているのを
さっ引いても4にはできんぞ!」

そんなことを言われたのに、通知表の評価が4になっているのを見て、僕はにんまりとした。

「音楽の授業で劣等生だった僕がバンド?」と自分にツッコミを入れながら、先輩の話を聞いていた。

「ケイトは顔がバンド向きだよ」

その意味はまったくわからなかった。とにかくギターとベースの音量に負けないように奇声を発してみた。

「なんか俺たちダサくてカッコいいよな」

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