麻雀の目無し問題と罪刑法定主義
2021年3月16日に行われた日本プロ麻雀連盟の「桜蕾戦」ベスト16で、大槻あいみプロが勝ち上がりの条件を満たさない和了をしてしまうという「事件」が発生しました。
この詳細については、日本プロ麻雀連盟の理事でもある黒木真生プロの記事をお読み頂ければと思います。
さて、今回の事件において私が最も疑問に思っているのは、公式Twitterで「規定上禁止されている」とまで言い切っているにも関わらず、その規定が何処にも公表されていない事です。
近代国家における重要な法理として、「罪刑法定主義」というものがあります。これは、「誰かを処罰するに当たっては、事前に処罰の対象となる行為及びその量刑を成文法で規定しておかなければならない」というものです。詳しい説明はWikipediaに譲ります。
勿論、日本プロ麻雀連盟は国家ではありません(というか、つい最近まで法人格すらありませんでした)が、日本最大の麻雀プロ団体である以上、その内部統治(特に、所属プロに対する罰則規定)については明文化されている必要があります。
競技中の禁止行為及びその罰則規定が明文化されていないと何が起こるかというと、団体内の有力者の意向で所属プロが恣意的に処罰される事になります。例えば、単なる空切りであっても「悪質な三味線行為」として失格処分が下される一方で、一度壁牌を越えて打牌した後にその牌を手に戻しても何のお咎めもなしという事が発生してしまうのです。
※あくまでも例示であり、実在の人物を揶揄するものではありません。
今回の事件では、解説の勝又健志プロが「条件を満たさない和了にはペナルティがある」旨の発言をしていたとの事ですが、ここでもやはり大槻あいみプロが具体的にどの規定に違反していたのかという解説はありませんでした。
私は、「目無し和了にペナルティを与えるな」という心算はありません。罰則規定を含む競技規定はあくまでも各団体の自治に委ねられるべきであり、大槻あいみプロもその競技規定には従うべきです。しかし、この競技規定が誰でもアクセスできる所に明示されてないければ、今回のペナルティは罪刑法定主義が禁じている「慣習法による処罰」に他なりません。果たして、黒木真生プロや勝又健志プロが何処まで罪刑法定主義を理解しているのかは不明ですが、外野から見れば今回の記事や解説はこういう発言と同じになります。
「コレはエンコ詰めやろなあ」
「グッバイ小指」
見事なまでに反社会的組織そのものです。2人とも、理事であったりMリーグの選手であったりと、一般の所属プロよりも「麻雀プロとしての社会的責任」は重いはずなのですが、「大槻あいみプロに対するペナルティの根拠規定をきちんと明示しなければ、日本プロ麻雀連盟も暴力団と同等に反社会的であるとの批判を免れない」という認識を持てる程度のコンプライアンス意識を持っているのか、私には疑問でなりません。
因みに、大槻あいみプロが目無し和了の禁止規定を知らなかったとしても、ペナルティを免れる事は出来ません。これは、「法の不知はこれを許さず」という法諺によるものですが、一方でこの法諺が有効となる為にはその「法」自体が公開されている必要があります。日本の法体系では、刑法第38条第3項でこの法諺を明文規定として盛り込む一方、法律の条文そのものは誰でも自由に利用できるよう著作権の対象から除外されています(著作権法第13条第1号)。
日本プロ麻雀連盟が、単なる「麻雀好きの集まり」から脱却し、真に麻雀の競技団体として社会的地位を確立する為には、今回の事件を機に具体的な競技規定もホームページ等で公開すべきです。その上で、大槻あいみプロがどの規定に違反してどのような処罰を受けたのかも公表すれば、私も日本プロ麻雀連盟を見直します。
最後に、大槻あいみプロに対しての感情ですが、これは罪刑法定主義とは関係なくボコボコに叩かれておけと思っています。ペナルティ云々とは別に、やはり目無し和了自体は決して褒められたものではありませんし、下手な麻雀を打てば猛烈に批判されるのもプロとしての責任の内です。その批判に耐えられないのであれば、今回の目無し和了とは関係なく麻雀プロとしての適性がないものと断言せざるを得ません。
今回は、桜蕾戦という新人・若手の女流プロだけによるタイトル戦ですが、舞台が大きくなればなるほど、そこで下手を打った選手に対するバッシングも大きくなります。この点では、日本プロ麻雀連盟に偉大な先達がいますから、そのプロからアドバイスを受ければいいでしょう。
萩原聖人っていうんですけどね。