おおむらくんとカーストのはなし
高校一年生の時に同じクラスだったお肌の綺麗な男の子、それがおおむらくん(仮名)だった。彼は花形サッカー部所属で、にこにこした顔が愛らしくみんなからよく名前を呼ばれる存在。いわゆる「イケメン」と呼ばれる顔立ちだった。
当時の私は高校デビューを夢見るもいまいち垢抜けできず、白紙のノートに絵を描くのが好きな、いわゆる「芋っぽい美術部」だった。
彼と隣の席になったのは、スクールカーストもとうの昔に固定して、文理選択も終えた12月ごろ。彼は廊下側の一番後ろの席で、隣には私しかいなかった。
生粋の文系だった彼は物理基礎の授業が終わるたびに、授業でわからなかったところを私に聞いてきた。「さっきの授業分からなかった、教えて〜」と問答無用で机を寄せてくる彼に衝撃を受けた。スクールカースト上位の彼がなぜこんな「陰キャ女子」に自分から机を寄せてくるのだろうか、と。そして私も文系なのである。なぜ私に聞く。さらに言うと次の時間は追試がかかった小テストがあった。私も小テストの勉強がしたい……そんな私の心を読んでか彼は「小テストの勉強の邪魔してごめん」とへらりと笑い「俺は暗記系は得意だから」と寄せてきた机をそのままにさっき私が教えた物理基礎の問題を解くのに集中する。そんな次の時間の小テストの答え合わせは、隣の席の人と答案を交換して行う。こんなやり取りがあった日には互いに多めに見合って答え合わせをした。
眠たい6限目の世界史の授業は、彼がセーターの袖にイヤフォンの紐を通して音楽を聞いているのを知っていた。灰色のセーター。ブレザーから覗くその灰色が、「萌え袖とはこうあるべきである」を物語っていた。
早めに授業が終わって自習時間になったある日、落書きをしていた私の手元を覗き込んで「絵、上手いね」と言った彼を覚えている。
そんなスクールカーストの上位である彼とは次の席替えが終わってからもちろん、全く関わりがなくなった。そして4月にはクラス替えというビックイベントで、彼とは同じクラスではなくなった。
最後に彼と言葉を交わしたのは高校3年生の体育祭、フォークダンスか何かに入場する列で偶然彼と隣になった時だった。汗を拭く用のタオルをグランドに直置きしている人を見て、「あれ気にならないのかね」「俺だったらやだね」とそんな感じの会話だったように思う。
おおむらくん、元気ですか。どこにいてもいいけど、あの丸い顔でにこにこしていたらいいな。私はあの時の私とは全然違う人になったよ。大学では「誰にでもガンガン行く陽キャ」って言われたこともあったよ。それはおおむらくんが私に、スクールカーストを超えて話しかけてくれたからだと思っているよ。きっとあなたみたいな人を、真の陽キャと言うのでしょう。
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