2024年10月28日 雑記「美術部とサブカル先輩」

 人生で初めて出会った「サブカルの人」は、高校の先輩だった。「サブカルの人」というと曖昧でなにを指しているのかわかりづらいが、とにかくサブカルっぽい雰囲気を漂わせている、軽音部あたりにいそうな人のことだ。(もっと勢いのあった頃の)ヴィレッジ・ヴァンガードに通っていそうで、マイナーなバンドを好んでいそうで、実際にそうだったのかは確かめていないが、おそらくそうだろうなと一目でわかる人のことだ。
 僕が高校生だった十数年前、ちょうど一年生が終わりかける時期に東日本大震災が起こったあの時期の「サブカル」という言葉は、いまとは少しニュアンスが違うかもしれない。けれどもあの頃は、重ためのもさっとした髪型で、長めのスカートを穿き、デカい黒縁眼鏡をかけていて、それでいてべつに暗い性格をしているわけでもないなら、かなり「サブカルの人」っぽさは強かった。その先輩は美術部の先輩で(といっても入部は僕のほうが早いのだが)、確かに「サブカルの人」だった。特に異性として意識したりしていたわけでもないが、「あれがサブカルの人か、この高校にもいたんだな」と関心した。

 美術部に入った当初、部員は二年生と三年生が一人ずついるだけだった。僕の代は一人だけで、少なくともここ二年は部長が自動的に決定している様子だった。けれども、僕が部長を引き継ぐくらいから(なぜか僕の代を除いて)部員数が増えていった。上はサブカル先輩を含む二人が増えて計三人となり、下にも五人ほど部員が入ってきた。さらにその下にも何人か入ってくれていたと思う。これはおそらく僕の成果ではなくたまたまなのだろうけど、美術室が賑やかになったのは嬉しかった。
 僕にとって「サブカルの人」がやってくることは、新しい章の幕開けを示すものであり、十数年前のあの美術室を思い出させてくれる懐かしいイベントなのだ。

 最近になって、サブカル先輩を思い出すことがあった。Twitterでバズった漫画の登場人物の名前が、サブカル先輩と同じだったのだ。高校卒業後、しばらく頭から完全に消えていたその名前を検索してみる。美容院のWebサイトがヒットした。スタッフ紹介ページにはデカい黒縁眼鏡をかけたサブカル先輩がいた。時代のせいもあってか、かつての印象よりもだいぶサブカル感は薄れている。きちんとした大人になっている。それでも確かにサブカル先輩だ。記憶にうっすらと残っている顔とたぶん同じだし、なによりデカい黒縁眼鏡をかけている。
 タブを閉じた僕は、近くにあった鏡を覗いた。そこには、サブカル先輩と違ってまだきちんとしていない大人がいた。

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